"スリル"
新しい事をやる時は、いつも事前準備をする。新しい事をするのには、不安が必ずついてくる。事前に調べたり必要な物を揃えたりして紛らわして、ある程度イメージトレーニングして備えて挑む。
スリルなんていらない。突然の事が起きる度、いつも頭が真っ白になって、心臓が止まりそうになる。まぁ、どんな事でもアクシデントの一つや二つはある。けれどそう何度も起きて欲しくない。それに、その原因が自分の無知で、なんて絶対嫌だ。
《完璧に》なんて流石にできないけど、ミスをするなら《その場で即修正可能》なレベルの小さなミスの方が良い。
"飛べない翼"
周りのように飛べないのなら、目いっぱい助走をつけて、沢山羽ばたかせればいい。
周りと同じようにして飛べないのなら、飛ぶ準備を増やせばいい。
不格好でもいい。馬鹿にされてもいい。
小さな翼でも、不揃いでぼろぼろの翼でも、絶対《飛べない》訳では無いから。
方法が違くても、飛べる。
《飛べない》と縮こまる自分に《飛べ》と鼓舞して、《飛べ》という鼓舞を《飛べる》と信じる心に変えて、足を、翼を動かす。
《飛べる》と信じて、飛べ。俺。
"ススキ"
スーパーからの帰り道、途中の野原に生えているススキが視界に入ってきて、目を向ける。綺麗な夕焼けに照らされ揺らめくススキが優雅で美しい。が、ふと思い出す。
「確かそろそろだな…」
悲しげな声色で思った事を口に出す。
以前、気になってススキについて調べた事がある。ススキの見た目は草に見えて、それまで花という認識が無かったので驚いたが、ススキの先についている《穂》という部分は、花が集まったものらしい。見頃は確か、十月から十一月半ば。もうそろそろ、枯れる時期だ。
心做しか、揺らめく様が儚げにも見えてきた。
「……」
ありがとう。また来年。
ススキに向かって、心の中で呟く。足を前へ一歩、また一歩と動かし、帰路に着いた。
"脳裏"
空を見上げていると『あの雲の形、兎みたいだなぁ』って思ったり、『なんかこの葉っぱ、この前スーパーで見かけた洋梨みたい』って思ったり、たまに全く別の『何かに似ている』とちょっと面白がったり遊んだりしてる。
いい大人が何やってるんだ、ってその度に自分を叱ったりする。やめようやめようって思っているし気を付けてもいる。けどまたやってしまう。
こんなガキみたいな事、もういい加減やめたいのに…。どうやったらやめられるんだ…?
"意味がないこと"
「ふあぁ〜……」
最近寒くなってきた上、今日は早めに終わらせる事ができたので、久しぶりに銭湯に来ている。
髪と体を洗い流し、湯船にゆっくり浸かると気持ち良さに思わずため息じみた声を漏らす。
「あったけぇ〜……」
そして当たり前の事も口にしてしまう。
顔を上げる。視界に広がるのは、銭湯特有の形をした高い高い天井だけ。他の客も、いるにはいるが二,三人程度で、聞こえてくるのは桶を置く音と、泡を流すシャワーの音と、微かに足音。
湯船の暖かさと少ない音数、情報の少ない景色。心地良さに顔を上げたまま、ぼーっと天井を見つめる。
何もせず、ただぼーっと天井を見つめながら湯船に身を委ねているだけ。こういう《何もしない》時間が大切。
……けど、『あぁすれば良かった…』とか『こうしなけりゃ良かったか…?』とか、一人反省会するの、止めたい。
いつもはシャワーだけで済ますが、その時も一人反省会しながらシャワーを浴びている。実は先程、髪や体を洗っている時も一人反省会していた。
──本当、止めたい。俺の方が年長で、経験値だって俺の方が上なのに……。
ちゃぷ…、と口元までお湯に体を沈める。
すぐに、はっ、と沈めていた体を跳ねさせ、元の体制に戻す。
──いやいや『止めたい』って思ったそばから、何また一人反省会してんだ、全く……。
また湯船に身を預け、また顔を上げて、ぼーっと天井を見つめた。