ミミッキュ

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10/13/2023, 11:39:19 AM

"子どものように"

 長袖のシャツに薄手の上着とストールを羽織りフルートが入ったケースを片手に外に出る。昼間より冷たく、だが朝とは違った冷たさの風がそよそよと頬を撫でる。今日は息抜きにまたあの曲──Last Surprise──をやろう。ケースを置いて蓋を開け、フルートを取り出す。丁寧に手入れされた黄金色のフルートに、月の光が反射する。気温と湿度が違うからか何となく反射する月の光が、夏の月の光と違う気がする。ふぅ…、と一呼吸すると構えて、演奏を始める。

──やっぱりこの曲は聴いても吹いても楽しい。
 この曲は時々、息抜きにこうして吹いている。この曲は聴いていても体が揺れるし、吹いていても体が揺れる。
 俺がフルートをもう一度やろうと思ったのもこの曲だし、初めてアレンジしたのもこの曲。この曲には思い入れが沢山ある。だからなのか、作業中に流したり息抜きに吹いたりするのは。この曲をもっと身近に置きたい、感じたいと思っているから色々な形でこの曲に何度も触れているのかもしれない。
 勿論この曲は息抜きにも丁度いい。この曲に触れている時の自分は、まるで子どもだから。さっきから体が揺れている。足もステップを踏んでいる。俺一人だけの演奏会だからできる事。

 ふぅ、と一息吐き、フルートを口から離す。体が演奏を始める前と比べて火照っていて、頬を撫でる夜風が心地良い。演奏で熱くなった体から、熱をいくらか奪っていってくれる。いい息抜きになった。
──…さて、戻って風呂入ろ。
 フルートをケースに仕舞い、ケースを片手に病院の中へ戻った。

10/12/2023, 10:59:40 AM

"放課後"

 用事を終わらせ帰路についていると、学生の姿がちらほらと見えた。スマホを取り出して時間を確認する。夕方の時刻を示していた。
「おっ」
 そういえばこの近くに学校がある。という事は今は放課後なのか。と、ぼんやり考えていると他の学生より大きなリュックを背負った男子学生を見つける。
「今でもでかいの背負う奴いるんだ…」
 俺が学生の時にも何人か大きなリュックサックを使っていた学生がいた。俺もその一人だった。丁度あの男子学生が背負っているものと似た大きさと形のリュックサックを使っていた。中身は筆記用具を入れた筆入れと教科書とノートとワークとファイルとそれ以外に、授業で使わない参考書や教本や自習ノートも入れていた。放課後はあの場所で、それを広げて自習してたっけ。
──今思えば、よくあんな重いリュックサックをほぼ毎日背負って登下校できたな。
 当時の自分を思い出して感心する。
──そういえば、時々パン屋さんで買い食いしてたな。あそこのパン、ふかふかで美味しかったなぁ…。
「久々に買い食いするか」
──お店まだあそこにあるかな?
 あのお店のパンの味を思い出して、あの時のお店へと足を向けて歩く。
──そうだ、他にもいくつか買って今日の晩飯にしよ。

10/11/2023, 11:07:31 AM

"カーテン"

 枕元に置いていたスマホから目覚ましのアラームが鳴り響き、意識が急浮上する。
「ん〜…」
 小さく唸りながら目を擦って、ゆるゆると瞼を開けると、カーテンが外の陽の光を吸い込んで室内を淡く照らしていた。もそ…、という効果音が聞こえてきそうな程ゆっくりと布団を剥いで、上体を起こしながらベッドの端に腰を掛ける。
「む〜…」
 先程よりもやや大きな声で唸る。再び唸ったその声はまるで駄々っ子のよう。唸った後は渋々と、油切れのブリキのおもちゃのように立ち上がりカーテンの元へと歩く。カーテンに両手をかけると、まだ眠気まなこだと言うのにカーテンを開ける。
 案の定突然の強い光に目がくらみ、反射で目を閉じるがすぐに慣れて目を開け、窓の外を見る。日が昇ったすぐ後のようで、まだ太陽が地平線に半分程隠れている。そして昼間の青空とは違う、淡く鮮やかな空が広がっている。外の空気を吸おうと窓を開ける。流石に最近肌寒いのでほんの少しだけだが。開けた窓の隙間から、朝の肌をひりつかせるように冷たく新鮮な空気が吹き抜けてきて、目を閉じて深呼吸をする。その冷たさにまだおぼろげだった頭が覚醒する。そして今度はぱっちりと目を開ける。
「…よし」
 と気合いを入れて身を翻し部屋を出て、一日のスタートを切った。

10/10/2023, 10:43:14 AM

"涙の理由"

 昼休憩中に別の曲を聴いていると急に視界が滲んで、つー…、と頬に暖かな何かが伝う。なんだ?、と思って触れてみると、指に一雫の水のようなものが乗った。
──俺、泣いてる…?
 慌ててスマホを操作して曲の再生を止める。そのすぐ後何故か分からず、スマホを持ったまま固まる。本当に何で泣いているのか分からない。…オイ誰だ今『歳のせい』だの『ジジイ』だの言いやがった奴は。
 日本語歌詞だし、曲名で調べれば理由がすぐに分かるだろう。
──俺が泣いたのは、曲調や歌詞のせいだ。きっとそう、絶対そう。
 そう自分に言い聞かせると、ポケットからハンカチを取り出して涙を拭う。そういえば、と端に置いていたマグカップに目をやると、中にまだ珈琲が残っているのに気付き、マグカップを仰って残りの珈琲を流し込んだ。

10/9/2023, 11:12:54 AM

"ココロオドル"

 あのゲームの楽曲を漁る。あの時聴いた曲が好みでゲーム楽曲なら他にも数曲あるだろうと思って調べてみたら、どうやらあのゲームはシリーズもので、本編のストーリーとは関係ないスピンオフの作品もあるとの事で、当然一度に全部は聴けないので、公開日が新しいものから順に聴いていく事にして、少しずつ消化している。シリーズごとに採用している曲のジャンルが違うらしいのだが、他のシリーズも気になっているし、それに色々なジャンルの曲に触れるのにいい機会だと思って、ちまちまと聴いていっている。
 今聴いているのは、あのゲームと同じシリーズのスピンオフ──ダンスゲーらしい──のOP曲。ダンスゲーのOP曲ってだけあって、リズミカルで弾むようなメロディライン。
「フフーフフ、フ、フ〜ン…♪」
 たった1回聴いただけ、1番を聴いただけなのに、すぐにメロディを覚えて2番のサビでハミングしてしまった。けど実際楽しげなメロディとリズムで、速度も丁度良くて覚えやすかったのだから仕方ない。

──この曲、吹きたいなぁ。
 一通り聴いて急にそんな思いが湧いてきた。戸棚から楽譜ノートを取り出して、パラパラと捲って何も書かれていないページの上部に曲名だけ記して戻した。

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