ミミッキュ

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"子どものように"

 長袖のシャツに薄手の上着とストールを羽織りフルートが入ったケースを片手に外に出る。昼間より冷たく、だが朝とは違った冷たさの風がそよそよと頬を撫でる。今日は息抜きにまたあの曲──Last Surprise──をやろう。ケースを置いて蓋を開け、フルートを取り出す。丁寧に手入れされた黄金色のフルートに、月の光が反射する。気温と湿度が違うからか何となく反射する月の光が、夏の月の光と違う気がする。ふぅ…、と一呼吸すると構えて、演奏を始める。

──やっぱりこの曲は聴いても吹いても楽しい。
 この曲は時々、息抜きにこうして吹いている。この曲は聴いていても体が揺れるし、吹いていても体が揺れる。
 俺がフルートをもう一度やろうと思ったのもこの曲だし、初めてアレンジしたのもこの曲。この曲には思い入れが沢山ある。だからなのか、作業中に流したり息抜きに吹いたりするのは。この曲をもっと身近に置きたい、感じたいと思っているから色々な形でこの曲に何度も触れているのかもしれない。
 勿論この曲は息抜きにも丁度いい。この曲に触れている時の自分は、まるで子どもだから。さっきから体が揺れている。足もステップを踏んでいる。俺一人だけの演奏会だからできる事。

 ふぅ、と一息吐き、フルートを口から離す。体が演奏を始める前と比べて火照っていて、頬を撫でる夜風が心地良い。演奏で熱くなった体から、熱をいくらか奪っていってくれる。いい息抜きになった。
──…さて、戻って風呂入ろ。
 フルートをケースに仕舞い、ケースを片手に病院の中へ戻った。

10/13/2023, 11:39:19 AM