遠い日の記憶
暇な日常生活を送っていると、毎日が同じことの繰り返しで特別記憶に残る事がない。
だから遠い日の記憶であっても、ついこの間のように思い出してしまう。
それが特別な記憶だったならなおさら執着してしまう。
ただ学生時代の記憶はあやふやだ。
学生の毎日は目まぐるしく変わるから、特別な記憶が上書きされていく。
楽しいことも嫌なことも辛いこともたくさんあったはず。それなのに覚えているのは、友人関係で悩みすぎて犬の散歩途中に道端で吐いたことだ。
あの頃は面倒だったけど、悩む程度には友だちがいたんだな。
いまは悩む友だちもいない。
あの頃からやり直したら、私の人生はなにか変わるだろうか。
空を見上げて心に浮かんだこと
「空を見上げて心に浮かんだこと、教えてください」
そう言われて見上げると、数えられる程度の星があった。
住宅地のアパートの2階。狭いベランダから空を見上げても、心動くほどのなにかはそこにはない。
「あー……そうだな、思ったより星が見える、かな」
「つまらない答えですね」
「悪かったな」
昼間の空には感じないけれど、夜の空は怖い。
宇宙を感じ取れるから。
宇宙に思いを馳せると、地球ってなんだろう、太陽系とは、銀河系とは、と壮大な答えのない疑問にぶち当たるから、怖い。
宇宙全体で地球なんてちっぽけな存在だ。宇宙からみれば地球で起きていることなんて、瞬きのうちのことだろう。
そんなちっぽけな地球のちっぽけな島国の、ちっぽけなアパートに住む私は、何なんだろう。
宇宙を感じて泰然とした気持ちになっても、ネットニュースを目にするだけで不安定になる人間という存在。
「アレクサ、電気消して。もう寝る」
「おやすみなさい。良い夢を」
終わりにしよう
居酒屋での接待という名の飲み会で運転手をすることになり、その帰り道のことだった。
帰路の車中であの人の家の住所をナビに打ち込む間に、後部座席に乗り込んだ社長は寝てしまった。
私の車は後部座席よりも助手席の方がゆったり座れる。その助手席には今日の取引先のあの人が座っていた。あの人は後ろを見ると、「仕方ないですね、先に社長を送りましょう」と笑った。
社長を送り届けたあと、車内で二人きりだ。
かすかな好意を抱く相手とだからなのか、よく知らない人とだからなのか。まぁ、どちらもだろう。緊張がひどく指が震える。なにか喋らなければと頭が焦りだす。
私の引き出しなんてなにもないから喋ってもらわないと、沈黙になる。
相槌も気をつけないと、焦れば焦るほどどぎつい冗談を口走ってしまう。
あの人の話を聞いてるのか聞いてないのかよくわからないまま、目的地についてしまった。
あの人は酔いに染めた頬に、普段よりも砕けた笑顔で礼を言ってくれた。
車のドアが閉められて、軽く手を振り見送ってくれる姿が焼き付いた。
なんだか涙が溢れてきた。
終わりにしよう。
こんな卑屈な自分はやめよう。
私はあの人を好きになってしまった。
好きな人に嫌がられない自分になっていこう。
手を取り合って
取引先に優しげな笑顔の人がいる。
こんな私にも惜しげもなく笑顔を向けてくれる。
いや、あの人とは事務的な会話しかしないから、私の性格は知られていない。きつい冗談を言う機会もない。だから親しみのある笑顔を向けてくれる。
あの人の会社を訪問するときは、私も普段より清潔感に気をつけている。あの人によく思われたいと、考えてしまっている。
手を取り合って、同じ道をともに進むことは期待できないけれど、良い人だなと思われるくらいは望んでも良いだろう。
恋心などと名付けるには程遠い感情ではあるけれど。
この感情を大切にできたら、私は私自身を好きになれるだろうか。
優越感、劣等感
呼吸してるだけでも劣等感に苛まされる。
ゲームで時間を潰してしまっても劣等感が襲ってくる。
インスタなんか誰得なのか。
キラキラした他人の生活なんか羨ましさより、自分へのヘイトと情けなさで泣きたくなる。
そんな私が優越感に浸る瞬間は、ソシャゲガチャでSSRを天井到達前に揃えられたときくらいだろうか。
今日は3凸で天井だった。無念。
だがしかし完凸まであと2枚。フフ。
過疎化が進むゲーム内の狭い世界でしか優越感に浸れない。
この何も残らない人生はいつまで続くのだろう。