ぺんぎん

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11/4/2023, 3:38:42 PM

にじ色のクリームがこんもりのっかったカップケーキを、かじるふたりの息はあまい。ソファに向き合い、きみはひとくちほおばるたび、口づけがうんと甘くなりそうだと微笑み、目じりにちいさなしわを寄せている。永遠に続きそうなしあわせを切り取っているみたいで全部さみしかった。

11/3/2023, 12:06:23 PM

きみは、ぼくに髪のけをすきにあそばせるのがすきだった、するりと生えぎわに指を差しこめば、ふわりとシャンプーのさわやかなにおいがした、それから長いあいだ、そばにいられなくなってもなお、それはしあわせのにおいとしてぼくに染みついたのだった

10/26/2023, 6:22:16 PM

きみを懐かしむために、いくつかの思い出のかけらを拾おうとするならば、まず思いつくのは、旅先のベッドルームでのひとときであろうか。異国にただよう独特の風や運ばれてきたにおいを吸いこんで、何度も眠りを重ねた。ひろびろとした部屋のあちこちでスローダンスをけだるげに踊っていた、そこでは、だれもふたりが愛しあうことを気に留めなかった。そこだけ地球儀からくり抜かれてしまったのではないかと思うほどに、その街は、静かがあふれていた。
ときどき、きみは、わたしの無防備な背中に指をのせて、じっくりと言葉を宛てた。くすぐったい文字が背中であふれ、それはふたりの愛情にくっきりと輪郭をつけてくれた。わたしはその殆どを理解しようとは思わなかった、きみはとくにわたしが理解することを望まなかった。いうなればそれは、ふたりの存在を証明する、ひとつもけがれのないやさしさの行為だった。気恥ずかしさもそっけなさもふくめて、それは愛の言葉そのものであった。

10/25/2023, 5:25:13 PM

あんなに覚悟をしていたのに、いざ脚を水面にひたしてみると、またきみを反芻してしまっている。波からただよう潮の匂い、ぼろのヨットでからだをからだにもたせかけて眠るときのきみの息の音。あの夏、ふたりは入道雲を掻き、その先の海をふたつに裂いた。
からだじゅうにぱんぱんに潮の匂いが満ち、その隙間に、きみのうなじの上品なコロンの匂いを反芻する。きみに、すべてに、ふれられる想像をする。ぼろのヨットに乗りこむ。これからの夏にきみはいない。

10/23/2023, 8:24:51 AM

めらめらめらと燃える空に、いくつもの渡しそびれたわたしの恋がとけていた、それがまぬけに、衣替えしたセーターに燃えうつり、まんまとあぶられていよいよわたしは灰になるのですか。ひかっているわたしの骨を、鎮火してください。

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