ぺんぎん

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12/29/2022, 10:49:44 AM

わざわざ皮を剥いてまで食べたみかんを吐きだしたとき、そこで多分わたしの肉体はもう尽きていたのだと
そう自覚した途端に
味のしないガムを噛み続けているような無力さと孤独に埋まっているような心地だった
わたしは、指にできたタコを、まだきみのせいにしていたいだけの軽い生き物だった

12/26/2022, 10:04:45 AM

磨りガラスを削ったみたいに細やかな雨が、皮膚の内がわをしつこく濡らす
その首を躊躇なく押さえつける、肉体へ食い込む恐怖を君は金切り声で振るいにかける
輪郭の崩壊、肉体の潰れるときに伴う悦びに痛み、反して、やさしいささやき
ほそい脚がばたついて跳ねる、わたしは爪を圧迫する肉の触感に心地よさを覚えている
脳みそで膨らんだ風船の束がいちどに破裂する音、残飯を漁る野良猫の声、きれいな沈黙

12/25/2022, 6:35:36 AM

吐きかけた息を飲み込む。それが喉に詰まる。皺を伸ばすように心臓がけたたましく肋骨を打つ。ちいさな椅子に痩せた脚をのせる。
靴擦れができた踵。先っぽが茶褐色になるまでに枯れた花びら、しみのついたベッド、皮膚が剥げたソファ、海を飲み込んだみたいに鬱陶しい青をのせた壁紙。
その全てが終末でしかなくて、あああ。身体を劈くような耳鳴り。音と音との混同。うるさい。うるさい。
ほつれ、捻れた楕円の中に首を突っ込み、掛ける。思い切りわるく床を蹴る。がたん。
肉の潰れる心地。圧迫。濡れそぼり、むずがゆい顎もと。冷えた手足の末端。割れた爪のひび。ごっそりと抜かれた目先の色。反して、奇妙な程に鮮やかな、リビングに転がったシェービングフォームの金属に反射する青。
こんなことばかりに目がいくのが痛い。あつい。冷たい。磨りガラスをぱきんと割いたみたいな雨。窓に張りついたかまきりの卵。肉体すべてに食い込む、針よりも繊細な、辛い、なんて痛み。逆流する血がまだ手首に通っている。
視界の明滅。ちいさく、ただくすぐったい耳鳴り。ぷちんと、脳みそに詰められた風船の束が内で破裂する音。小蝿がごみをかき分ける音。ぎしぎしと軋む縄目の音。沈黙。

12/24/2022, 1:55:35 PM

咳き込むようにきみに好きっていったそれ、誤魔化すためにマグの底で溶かしたのね
凍った水溜まりをざくざくと踏みしめて薄い皮膚の外がわでくらいは強がってやる
恋なんてすればイルミネーションが綺麗に見えるらしいや、そんなの全部嘘っぱちって否定なんかできるわけなくて、シャッターを落とす、肌になじむ熱は、やけにうざったい

12/23/2022, 10:03:45 AM

鼻のおでこだけは毛布にくるまれず、冬の、ふてぶてしい冷たさを可視化している
君が骨になったのはちょうど先月、冷えて凝り固まった肉体は、あっという間に塵だ
じわじわと冷える壺の中にひとりきりで詰め込まれたそれはやけに窮屈そうだった
埃で煤けたシェービングフォームから咳き込むように吐かれた泡は柚子の匂いがする
ざり、と皮膚をなぞり、髭を剃る、その優しくない匂いで、まだ生きていられる気がした

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