ぺんぎん

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吐きかけた息を飲み込む。それが喉に詰まる。皺を伸ばすように心臓がけたたましく肋骨を打つ。ちいさな椅子に痩せた脚をのせる。
靴擦れができた踵。先っぽが茶褐色になるまでに枯れた花びら、しみのついたベッド、皮膚が剥げたソファ、海を飲み込んだみたいに鬱陶しい青をのせた壁紙。
その全てが終末でしかなくて、あああ。身体を劈くような耳鳴り。音と音との混同。うるさい。うるさい。
ほつれ、捻れた楕円の中に首を突っ込み、掛ける。思い切りわるく床を蹴る。がたん。
肉の潰れる心地。圧迫。濡れそぼり、むずがゆい顎もと。冷えた手足の末端。割れた爪のひび。ごっそりと抜かれた目先の色。反して、奇妙な程に鮮やかな、リビングに転がったシェービングフォームの金属に反射する青。
こんなことばかりに目がいくのが痛い。あつい。冷たい。磨りガラスをぱきんと割いたみたいな雨。窓に張りついたかまきりの卵。肉体すべてに食い込む、針よりも繊細な、辛い、なんて痛み。逆流する血がまだ手首に通っている。
視界の明滅。ちいさく、ただくすぐったい耳鳴り。ぷちんと、脳みそに詰められた風船の束が内で破裂する音。小蝿がごみをかき分ける音。ぎしぎしと軋む縄目の音。沈黙。

12/25/2022, 6:35:36 AM