今すぐに此処から逃げ出したい
とっくに朽ちていった淀んだ愛の住処
無理矢理目線をあわせようとぐいと顎を掴んだ
彼の指はこんなに細かったのか
きゅうと爪が食い込んで痛いな
くにゃりと足先がゆるゆるほどけてぷかぷか浮きあがっていく感覚
ぽたぽた彼から溢れ落ちたあまりにも美しい涙を
受け入れられずにいられなかったのだ
すとんと地面に穴が出来て、まっ逆さまに堕ちゆくような錯覚と
がらくたの寄せ集めみたいな欠如した愛を選んだのは私だ
とろけるような口づけと、べたり張り付いたTシャツ
曇天のそら、あつい吐息と果てていく
自らの視線の先で、果てて朽ちるあなたの姿など容易に想像できた
どすぐろくてどろどろした気配はどんどん私を包み込んでいる
運命なんてものよりはるかに繋がった
ああ五月蝿い、秒針が急かすようにかちかちと音を鳴らす
空虚に溶けた吐息が嗤っている、嗤うな、嗤うな
焼けきれそう、燃え尽きていく
ふといまさら貪欲に愛を求めていたことに気がついた
咄嗟によろけて、くたくたになって崩れてって
だらしなくあんぐり空いた口、瞳から決して綺麗だとは言えないものが溢れる
胃の奥があつくて苦しくて悔しくて、染みのできた赤いソファを蹴る
じんわりと熱を帯びて、痛かった
ふっと気を紛らわせて、誤魔化すのはお上手なんだ
ちょっと触れるとすぐに発火する、大きな爆弾を抱え続ける
癖になりそうなくらい甘くて
ふいと隣を見ればついさっきまで君がいた音と匂いと、全部が混じりあって
ぎゅうと圧迫されるような愛すら、なんだか心地いい
ぞくりと身震いするほどいとおしい
頬が、熱い
熱がほどけていく、瞬く間に絆されていく
一晩で愛を交わした
喪失と強欲に頭はぱんぱんになって
部屋の片隅に射し込んだ朝日がなんだか痛くてひりひりする
水を胃の奥に流し込む、後味はうんと苦い
枯れきって、淀んで、濁ったはずの瞳から
突然、あたたかくて美しい雫が溢れおちた
ぐしゃりと顔を歪めた、顎の辺りで交差した涙がむず痒い
きっと弾けるような愛だった、でも今でも好きだった
胸もとの爛れ焦がれた火傷跡を更に埋め尽くすような
あまりにも滑稽な
あかく濁った火の揺らぎはとめどなく
しゅぅと、僅かな音をたてた細い白煙
喉奥がもっと爛れていく、ぼんやりと赤みを増す
熱くって仕方がないくらいに
苦しいから、痛くてたまらないから
それを優しく撫で上げて、痛みを暫く忘れさせて