俺には、気になっている人がいる。
バイトをしているカフェに、いつも来てくれる大学生
頼むのはいつも猫のラテアートで、笑った顔が可愛い。
そんな彼女と、付き合うことになった。
初デートは、一つ年上の俺が決めた。
再開発で新しくなったデパートのスタンプラリー
景品は完全シークレットで、デパートの発表では
彼女の好きな漫画とコラボしている事がわかっていた。
デート当日。彼女はやっぱり可愛くて、勾玉みたいな
ピンどめが良く似合っていた。
コラボパフェのピンク色のウサギに可愛い!とSNSに
あげたり、映えスポットでツーショットを撮ったり。
まさしく初デートの初々しさを残した俺達は、着実に
スタンプを集めていった。
そして、受付にカードを持っていき、係の人から
小さめの箱を受け取った後.....
中身を見た俺達は、固まっていた。
箱の中身は芳香剤。それも、大根の香りだ。
付録の紙には
『夏のトTレ大根祭〜⑴芳香剤を大根の香りに』
しばらく固まって、瞬間笑いが止まらなくなった。
大根の芳香剤ってなんだよ。反則だろ。
隣を見ると彼女も笑っていて、目線が交わって、
また笑った。
今の俺達には何もかにも刺激になるようで、
笑い転げながら、今なら何でもできると思った。
結局彼女とは半年付き合って別れてしまったけれど、
今でもあの芳香剤は家にある。
いろんな人に捨てたら?と言われるけれど、やっぱり
捨てられない。いまさら思い出に言及するつもりはない
けれど、これから何があろうとも
あの笑いにかき消されるような気がするのだ。
【宝物】
あたりは純白の霧に包まれ、時折聞こえるせせらぎに耳を澄ませば、その虚空からきこえる古の音色は静かにその身を打つ。
此処は銀世界。人は神々が住み、戦場に散った勇ましき英雄達が終わらぬ祝宴をあげていると信じる場所。
ヴァルハラとも呼ばれた天空は、いまや一つの少年のものだった。彼の名はカムパネルラ。オーディンより推薦され、一筋の彗星とともに夜空を彩る星々となった者。
そして、空に住まう者たちに、永遠からの解放をもたらす者。今の名を、Benedictio ベティオという。
僕の生前は、賢い少年だったとベティオは語った。そして友人を助けて溺れ死んだが、親友の行末が気になるのだとも。
そして、他のたちも彼にその生涯を語って聞かせた。
永遠の祝福は、決して手放しで喜んでよいものではない
矢を射るケンタウルスは、聡明で、彼に全てを教えた。
彼自身、星座は神の悪戯のふしがあると貶し、しかし多くの偉大なるものとの巡り合いには、感謝せねばと笑った。彼は師を務めていたことがあるらしい。
蠍にも、獅子にも会った。彼らはヘラという神の使徒だったが、向かった先で殺されてしまったという。
今思えば、あれも神の一興だったのだろうと呟いていた
ベティオは聡明な少年だった。
オーディンの鴉が目をつけるほど、彼は全てに長けていた。状況に甘んじることは無く、親友には最後の邂逅を果たした。
だからこそ、彼は皆に祝福を与えることにした。
永遠の祝福という鎖に縛られ、死してなお神の遊戯に使われるものたちを、彼は心の底から憐れみ、自らがその立場にあることに強い怒りを覚えていたのだ。
すべてを受け入れ、抵抗の意を見せたベティオに、神々はあっけなく天空を明け渡した。
そして、今彼は粛々と別れの儀をとりおこなおうとしていた。
一片の欠けもない漆黒の石板に埋め込まれ、装飾を彫られた翡翠にアメジスト、多くの玉石は天が照らす光に瞬き、うつくしかった。
それはまさしく星座に、夜空を輝かせ、民を導く役目を果たし続けてきた偉大なる者達の光。
ベティオは不意にこの光を失うことを酷く恐れる気持ちに襲われた。それは彼が今まで経験してこなかったもの
周りが知らず知らずのうちに彼に課していた重圧。
それは彼を苦しめたが、ここまでのものではなかった。
今彼を苦しめるのは、初めて自分が、自分から誰かを救うのだという自負。
ベティオはまだ少年だった。
「ベティオ」
! 射手座の声が、今日はやけにはっきりと聞こえた。
射手座の重厚な声はベティオに全てを任せると物語っていた。ここにきて、知り合い、寝食を共にした仲間達。
多くの想い出は、決して消え失せることはない。
時は、彼等から何も奪えはしない。
『ut benedicat tibi (祝福を) 』
【星座】
やっぱり前作【別れ際】の続きです。
この間から、妙に頭が働かない。
授業に身が入らないばかりか、当番の掃除を忘れてしまったり、気がつけば寝ていたり。
まるで、思考をすることを禁じられているようだと友人には話したが、一笑にふされて終わってしまった。
そこからの記憶は、あまりない。
彼がこの話を聞いてきたのは、台風が吹き荒れて、季節が混ざり合ってしまったような曇天の日の事だった。
話しかけられた途端、頭を覆っていた霞が一気に払われたような気がした。「かわいそうに。」不意に聞こえた音に顔をあげれば、
彼はその顔(かんばせ)を歪め、憐憫にも似た表情で僕を見下ろしていた。
君には全てを話す義務がある。それが、つまらない争いに巻き込んでしまった、せめてもの詫びだ。
そう切り出した彼の話は、所々聞こえないところもあったけれど、気にならないくらい理解し難いものだった。
昔のことだ。古事記を読んだことは?あれの八割くらいは、本当のことだよ。
そう、世界には<’”<~^の神々がいて、常に季節の座をかけて争っていた。その時の神は皆一様に一人だったがある時^^~^^”::_*_()の神から生まれた1柱が兄弟神三柱をつくりだした。そして、季節の座を皆で掴み取った。我らは4柱でひとつ。一年を四等分し、交代で治めることになった。幸せだった。皆幼く、純粋で、欲を知らなかった。ある時、西のエデンから逃げてきたと言う蛇を見つけた。蛇は狡猾に我らに取り入り、夏に欲を持つことの素晴らしさを教えた。夏は行動の夏。もっとも深き時が生まれるとき。全てを手にしたくなり、春を連れて私と冬を滅ぼしにきた。
元々、全てを眠らせ、休眠を与える静寂の冬と木々を実らせ着飾らせ、最も華やかであると言ってもいいくせに、たんたんと夏から冬への移り変わりの引導を引き受けるだけの秋。停滞していた日々で、欲を知った夏は春には"面白く"感じたのだろう。しかし、命を芽吹かせ、豊穣の風を吹かせる春に滅亡はあつかえず、結局我ら秋と冬は季節から追放されるに至った。
君に春の術がかけられているのに気がついた時は心底驚いた。人は時として神を悪霊にさえ変えてしまうほどの力がある。きっと、詮索されることを恐れたのだろう。
だが、あの術は人を無気力にする。元冬の力だ。あのままだと、君は死んでいた。
きっと、君は信じていないんだろうね。
厨二病だと揶揄してもらっても構わない。
これは、ただの懺悔なのだから。
全てを失ってなお、片割れを愛しく思う、愚かな者の懺悔なのだから...
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お題の【踊りませんか?】どこいった?って話です。
ちょっとこの話と結びつけるのはできませんでしたね...
背景が明かされて、敵?の正体も見えてきた..?
次回は違います!
【通り雨】の続きです。
あれから、3日が経った。
いたたまれなくなって逃げ帰ったものの二度とあの森に
は行けず、彼の態度も変わりはしなかった。
自分が物語の主人公だと思っても、結局は名前さえ出な
い脇役だったりするものだ。彼の物語に僕はいない。
ああ、でも考え事をしている最中に声をかけられるのは
なにか決まりがあるんだろうか。
「ねぇ、おにーさん!」
そのとたん、視界にピンクが舞った
う...頭が痛い。ぐらぐらする。
あれ?何をしていたんだっけ?
霧がかかったみたいに思考が停止して、足元がおぼつか
ない。
もう、家に帰ろう。
その春は、儚く、美しく、人をまどわす
別れ際に気をつけて
【別れ際】
前作【秋】の続きです
『雨が降っている』
現実逃避のように脳内導き出された現在の状況は、
全く自分でも理解のできないものだった。
9月27日午後6時。噂の彼を尾行中
皆そうだと思う。古きとか、同胞とか、現代っ子は使わ
ない。だから、罰ゲームの定番が彼の相手を突き止める
になるのは、至極当然の流れだった。
しばらくしたら皆巻かれてしまうんだけど、今回はずっ
と追いかけていられた。だんだん気温が下がっていって
、白い息が見えはじめる。そうしてたどり着いた場所
は、白をかぶった針葉樹の森の中で、そこにひとつ置か
れたベットだった。
彼はそこに近づくと、何やらつぶやく。誰がいるのかは
ここからでは見えなかった。不意に、つむじ風が吹く。
視界が開けた時にはもう彼はいなくて、代わりにベット
の上に純白の青年が座っていた。その人が与える印象
を、なんと表現すればいいのだろう。限りなく静謐で、
広大で、美しかった。
数歩、近づく。体中を突風が包み、コートに雪が積もる
この人も、怒るんだろうか?静かに佇むその人に尋ねた
「まるで、貴方は冬みたいだ。」
白を纏った青年は、なんともいえない表情で笑っていた
【通り雨】