【通り雨】の続きです。
あれから、3日が経った。
いたたまれなくなって逃げ帰ったものの二度とあの森に
は行けず、彼の態度も変わりはしなかった。
自分が物語の主人公だと思っても、結局は名前さえ出な
い脇役だったりするものだ。彼の物語に僕はいない。
ああ、でも考え事をしている最中に声をかけられるのは
なにか決まりがあるんだろうか。
「ねぇ、おにーさん!」
そのとたん、視界にピンクが舞った
う...頭が痛い。ぐらぐらする。
あれ?何をしていたんだっけ?
霧がかかったみたいに思考が停止して、足元がおぼつか
ない。
もう、家に帰ろう。
その春は、儚く、美しく、人をまどわす
別れ際に気をつけて
【別れ際】
前作【秋】の続きです
『雨が降っている』
現実逃避のように脳内導き出された現在の状況は、
全く自分でも理解のできないものだった。
9月27日午後6時。噂の彼を尾行中
皆そうだと思う。古きとか、同胞とか、現代っ子は使わ
ない。だから、罰ゲームの定番が彼の相手を突き止める
になるのは、至極当然の流れだった。
しばらくしたら皆巻かれてしまうんだけど、今回はずっ
と追いかけていられた。だんだん気温が下がっていって
、白い息が見えはじめる。そうしてたどり着いた場所
は、白をかぶった針葉樹の森の中で、そこにひとつ置か
れたベットだった。
彼はそこに近づくと、何やらつぶやく。誰がいるのかは
ここからでは見えなかった。不意に、つむじ風が吹く。
視界が開けた時にはもう彼はいなくて、代わりにベット
の上に純白の青年が座っていた。その人が与える印象
を、なんと表現すればいいのだろう。限りなく静謐で、
広大で、美しかった。
数歩、近づく。体中を突風が包み、コートに雪が積もる
この人も、怒るんだろうか?静かに佇むその人に尋ねた
「まるで、貴方は冬みたいだ。」
白を纏った青年は、なんともいえない表情で笑っていた
【通り雨】
秋は夕暮れ
かの有名な清少納言は枕草子でこうつづった。
でも僕は疑問を感じずにはいられない
彼にはあけぼのが一番似合う。
彼は四兄弟の三番目だといった。
出会ったときのことを掘り返す趣味は無いが、彼は常に
清涼な空気をまとっていて、それでいて錦を纏ったよう
に華やかだ。まあ、彼について言うならもう一つ。
まるで秋だ。
その手の冗談に彼は一切笑わない。
むしろ、やめろと言わんばかりに睨みつけてくる。
そして、古き同胞に会いに行く。
僕が知っているのは本当にそのくらいだったのだ。
【秋】
世界が音を失ってはや5年。
耳は正常。ただ、音が生まれなくなっただけだった。
ある日、ひとりの男が訪ねてきた。
男は筆談で会話する。口が聞けないわけではないのに。
皮肉っているのだろうか。
こんな世界を。
男と共に旅をした。
男は多くの曲をつくった。
世界はそれを拒絶した。
ある日、男が血を吐いた。
男は世界に一時の別れをつげた。
世界は動揺した。
あとわずか。
世界は白衣の者にそう告げられた。
男は笑っていた。
世界は初めて誰かのために音を奏でた
男が息を引き取るその時も
最後のさいご、男は世界につぶやいた
「ずっとあんたのファンだった。」
世界という名の青年の目から、
一筋の涙が溢れた。
【声が聞こえる】
それは恋ではなく、恨みでも友情でもない。
誰かがそれを愛だといった。
ならば、ワタシは...
「本日付で護衛に就任しました!
フリンクです!よろしくお願い__ったぁ!?」
「すみませんね。コイツうるさくて。」
「構わないよ。よろしくフリンク」
これが、俺と俺の主君との出会いだった。
隣国との戦争はようやく終結を見せ、主君も護衛の俺と一緒ならば比較的自由に外出できるようになった。
主君は絶世の美人で、道ゆくだれもが振り返ってあの方を噂した。
主君は性格も良く、他に無いものを沢山持っていた。
そして、俺がそんな主君に淡い恋心を抱くのも時間の問題だった。
気持ちを自覚してからの俺は舞い上がっていた。
いつのまにか同僚が失踪と補充を繰り返しても、何も思わないほどには頭が働いていなかった。
だからだろうか?
俺は主君の全てを知っていると愚かにも思い上がっていた。本質は何もわかっていなかったのに。
「フリンク。オマエはいいやつだったね。
ワタシを怪しまず、私を守った。
でも、私の情が移りそうなんだ。そうなったら、ワタシはどうなる?私の陰にいるのも難しくなってくる。」
「だから、死んでくれ」
目の前にいるのは紛れもなく敬愛し、密かに想いを寄せる主君の姿だ。
ああ、でも俺はコイツを知らない。
いや、知っている。
コイツは、主君の影に棲みついていた...!!
昔のことだ。護衛になる前に、昔主君に仕えていたという男が俺の元へやってきた。
男は言った。
お前が仕えるお方の影は絶対に見るな。
どんなに気配を感じても、詮索してはならず、
その存在をお聞きしてもいけない
何故なら...
あの方の影には奴が棲みついている!
奴はあの方の全てを手に入れないと気が済まない。
寂しさを埋めるのも、自分の役割にしたがる。
だから、その役目が揺らぎそうになった時、奴は
あの方に乗り移り、全ての邪魔を薙ぎ払う。
僕は運が良かった。奴から逃れられた。
いいか、あの方にはなるべく関わるなよ。
その翌日、その男は死体で発見された。
恐怖で体が震える。それでも主君はうつくしかった。
奴は言う。
みのがしてあげようか?
オマエは自らここを去る。
うまくできたら、見逃してやるよ
俺は生きたかった。だから、心の奥底の声を無視することしか出来なかった。
選択肢は一つしかなかった。
窓の外ではほんのり色づき始めたイチョウがゆるく存在感を放っている。あの護衛はもう行っただろうか?
人が怖くてワタシに守られてばかりだった私。
たとえ今お前が苦しんでいたとしても、これがワタシの愛なのだ。
全力で、ワタシなりにお前を守るから、
今はどうかこのままで、側にいさせて
これはひとりの叶わぬ恋をした男と
愛を知らず享受する娘と
一心に愛を捧げる娘の別人格の
恋物語
【秋恋】