それは恋ではなく、恨みでも友情でもない。
誰かがそれを愛だといった。
ならば、ワタシは...
「本日付で護衛に就任しました!
フリンクです!よろしくお願い__ったぁ!?」
「すみませんね。コイツうるさくて。」
「構わないよ。よろしくフリンク」
これが、俺と俺の主君との出会いだった。
隣国との戦争はようやく終結を見せ、主君も護衛の俺と一緒ならば比較的自由に外出できるようになった。
主君は絶世の美人で、道ゆくだれもが振り返ってあの方を噂した。
主君は性格も良く、他に無いものを沢山持っていた。
そして、俺がそんな主君に淡い恋心を抱くのも時間の問題だった。
気持ちを自覚してからの俺は舞い上がっていた。
いつのまにか同僚が失踪と補充を繰り返しても、何も思わないほどには頭が働いていなかった。
だからだろうか?
俺は主君の全てを知っていると愚かにも思い上がっていた。本質は何もわかっていなかったのに。
「フリンク。オマエはいいやつだったね。
ワタシを怪しまず、私を守った。
でも、私の情が移りそうなんだ。そうなったら、ワタシはどうなる?私の陰にいるのも難しくなってくる。」
「だから、死んでくれ」
目の前にいるのは紛れもなく敬愛し、密かに想いを寄せる主君の姿だ。
ああ、でも俺はコイツを知らない。
いや、知っている。
コイツは、主君の影に棲みついていた...!!
昔のことだ。護衛になる前に、昔主君に仕えていたという男が俺の元へやってきた。
男は言った。
お前が仕えるお方の影は絶対に見るな。
どんなに気配を感じても、詮索してはならず、
その存在をお聞きしてもいけない
何故なら...
あの方の影には奴が棲みついている!
奴はあの方の全てを手に入れないと気が済まない。
寂しさを埋めるのも、自分の役割にしたがる。
だから、その役目が揺らぎそうになった時、奴は
あの方に乗り移り、全ての邪魔を薙ぎ払う。
僕は運が良かった。奴から逃れられた。
いいか、あの方にはなるべく関わるなよ。
その翌日、その男は死体で発見された。
恐怖で体が震える。それでも主君はうつくしかった。
奴は言う。
みのがしてあげようか?
オマエは自らここを去る。
うまくできたら、見逃してやるよ
俺は生きたかった。だから、心の奥底の声を無視することしか出来なかった。
選択肢は一つしかなかった。
窓の外ではほんのり色づき始めたイチョウがゆるく存在感を放っている。あの護衛はもう行っただろうか?
人が怖くてワタシに守られてばかりだった私。
たとえ今お前が苦しんでいたとしても、これがワタシの愛なのだ。
全力で、ワタシなりにお前を守るから、
今はどうかこのままで、側にいさせて
これはひとりの叶わぬ恋をした男と
愛を知らず享受する娘と
一心に愛を捧げる娘の別人格の
恋物語
【秋恋】
9/21/2023, 5:32:07 PM