#言葉にできない
―――
男が、一人
床に膝を着き、顔を伏せている
その身体は震え
微かに、聞こえない程に、声が漏れている
「嗚呼、可哀想に」
誰かが、そう呟いた
「どうして、どうして」
その後に、半音高い声
中央に置かれた額縁と花束は
明るい表情をしているというのに
何とも言えない空気感が
男を中心に流れていた
...その当人は、未だ変わらぬまま
額縁を抱える両腕に、力が籠ったのが
誰の目から見ても、分かった
そう、その男は―――
数ヶ月前、彼女を奪われていた
...ははつ
#春爛漫
―――
男が道なりに足を進めていた
顔色は暗く、画面を見る目も何処か虚ろ
もはや、足だけが別の生き物のようであった
そんな時、画面上に何かがひらりと舞い降りた
それに明らさまに眉を顰め、手でそれを払った
嗚呼、うっとおしい
ついでと言うように手で注ぐ光を遮ると
男はそのまま、高く聳えるビルへと入っていった
―――
男が道なりに足を進めていた
顔色は暗く、画面を見る目も何処か虚ろ
もはや、足だけが別の生き物のようであった
そんな時、画面上に何かがひらりと舞い降りた
男は一瞬嫌そうな顔をしたが
その落ちてきたものを辿るように少し視線をあげた
すると、どうだろう
一面に、美しいピンク色
零れる光は、その景色をより一層引き立てている
嗚呼、綺麗だ
男の瞳に、光が映る
そして男は視線を戻し
先程より幾分も清々しい顔で、建物へと入っていった
―――
#誰よりも、ずっと
―――
君の事を見ていたんだ
どう言う事で笑うのか
どう言う事が嬉しいのか
どういう事で、悲しむのか、怒るのか
目線を上げれば
鼻をかきながら、笑う君がいた
その合間に、垣間見えた瞳を見て確信してしまった
...嗚呼、どれだけ君を見ていても
この腕に抱き止められないのなら、意味がないのに
#これからも、ずっと
―――
愛していたかった。君に似合わないなんて分かっていたさ。それでも、この想いだけは、他の誰にも負けるつもりはなかったんだけれども
#沈む夕日
―――
「夕日がきれいですね」
鮮やかな茜を映す海へ、そう語りかける
”幸い人影が見えないから、変な人扱いされなくて済む“
...と、寂れ始めたことへの現実逃避も少々
ザリっと音を立てながら歩き出せば
頬を撫でる潮風が心地良かった
まぁ、前と違って
片手が冷えてしまうのが、困りものだけれど
手袋のない片手を見つめ、
貴方がこの手を握ることもないのに
「馬鹿だなぁ」と他人事のように笑った
少しして、満足して
くるりと向きを変えて、石垣の方へ足を向けた
背後の空が、答えを出してくれる訳もなく
そのまま、茜は沈んでいってしまった