#沈む夕日
―――
「夕日がきれいですね」
鮮やかな茜を映す海へ、そう語りかける
”幸い人影が見えないから、変な人扱いされなくて済む“
...と、寂れ始めたことへの現実逃避も少々
ザリっと音を立てながら歩き出せば
頬を撫でる潮風が心地良かった
まぁ、前と違って
片手が冷えてしまうのが、困りものだけれど
手袋のない片手を見つめ、
貴方がこの手を握ることもないのに
「馬鹿だなぁ」と他人事のように笑った
少しして、満足して
くるりと向きを変えて、石垣の方へ足を向けた
背後の空が、答えを出してくれる訳もなく
そのまま、茜は沈んでいってしまった
#君の目を見つめると
―――
嗚呼、届かないのだと思い知らされる
私がどれだけ見つめても
覗いた瞳に、私が映ることは無い
君は何時だって、
君にしか見えない様な何かを見詰めている
それが悔しくて、悔しくて
どうしようもなく愛おしくて
そんな私に、嫌気が差した
#星空の下で
―――
春の季節に見上げると
夜の帳に思い出すことがある
「あれが、他の星座をみつける目印になるんだ」
その言葉を皮切りに、その日その日の説明を始める
...今だから、正直に言うと
星には、あまり興味がなかった
君が、好きだって話すから
肌寒い河川の芝生に、二人
何度も何度も、君の話を聞きながら
星を映す瞳を見るのが、ただ好きだっただけ
...そうして過ごしていたからか
普通の人より、何時の間にか星に詳しくなってしまった
理科の点数が少し上がって、よく君が誇らしげにしてたっけ。
でも、僕にはそんなの、どうでもよかったんだ
ただ、星を君と眺めて居られれば、それで
...それだけで、良かったのに
今では、僕が君を見上げるだけ
話してくれた目印も、君を見つける上では一つも役に立たない。
こんなに覚えられたのに、教えてもらえたのに
一番見ていたかった星を見つけられないなんて、なんて言う皮肉だろう
何度笑っただろう、何度空が歪んだだろう
そんな夜には決まって「嗚呼、逆だったら」と、思う
そうしたら君は
僕を探す為に、空を見てくれたかもしれないのに
#1つだけ
―――
一つだけ、お願いがあるんだ
なぁに、実に簡単なことだ
幸せになってくれ
そう、たったこれだけ
...驚いた顔をしているね
もっと酷いことを願われると思ったのかな
ははっ、期待に応えられなくてごめんね
...いや、本当だよ
本当にただ、幸せになって欲しいだけさ
結婚して、子供を...って
今はこれだけじゃないよね
うん、そうそう
見つけてくれたらいいよ
君なりの形を探して
幸せになって
そうして、思い出せば良い
”幸せ“と聞く度に、僕の顔を
そうすれば、僕の不幸も
少しは幸せになれるから
#大切なもの
―――
忙しなくて
当たり前に消化されていく日常
先なんて分からないし
なんて事ない日々だけれど
この繋いだ手だけ
これだけは
離さずにいたい