#優しさ
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時折、身体に温もりのぶつかる時がある。
...ぶつかると言うのは比喩ではなく、本当に。
俺が座っていると、態々寄り掛かる様に彼奴がぶつかって来る。
もっと言うと、そのソファーは三人くらいなら余裕で座れる広さな物なのに...だ。
最初は、なんだ此奴だなんて思った。
幾ら俺が端に座ってるからって、二人だけなんだから他にスペースがあるだろうと。
まぁ、文句を言う気になれず、時々だったから、そのままにしてきたのだが。
...思う所があった時に限る
そんな法則性?に気が付いたのは、つい最近の事。
何となくモヤモヤしてた時に限り、彼奴は俺にぶつかってきた。
特に何を言うでも、するでもなく。
「.........」
ほら、今だって、此奴は俺に寄り掛かり、優雅に煙管を吹かせている。
...いつも通りだったのだが、一体何を感じ取っているのか
そう苦笑したが、消して嫌じゃなかった。
伝わる此奴の重みが、匂いが、気配が。
何処にやって良いか分からないモヤモヤを、受け止めてくれている様で。
だから今も、特に何も言わず俺は彼奴の寄り掛かり台になっている。
ありがたく、此奴のぶきっちょな優しさに寄りかかる為に
#ミッドナイト
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『腹減ったな』
そう言う此奴に着いてきたのは、何故だったか。
街明かりが沈んでいるからか、吐いた息がより白く見え
室内で暖まった身体から、熱が逃げていくのが分かった
辛うじて、手袋のままポケットに突っ込んだ手はマシだと思う
「...お前は、家で待ってても良かったんだぞ?」
玄関口以来の、此奴の声。
普段なら俺一人に買いに行かせるくらいなのに、しおらしく聞いてくる様子が、なんだがおかしかった。
「ふっ、丁度俺も夜風に当たりたかったんだよ」
「ふーん...こんなさみぃのに」
「お前だって、甘味欲しさに出てんじゃねぇか。また血糖値上がるぞ」
「あーあー聞こえない聞こえなーい、最近は落ち着いてっからいーの」
「まぁマジでダメなら殴ってでも止めるから良いんだが」
「いや怖ぇよ?...クシュッ」
そうして話していると、くしゃみが一つ
「おい、だから手袋しろつったろ」
「いやすぐ見つからなかったし、手袋一つ無かったって良いかなってよ〜...ヘクシュ...!」
「言わんこっちゃねぇな...」
顔を見てみると、鼻先がほんのりと赤い。
寒いから当然か...多分俺も似たようなもんだろうしな。
そんな事を思いながら、俺は此奴に片手を差し出した
「......飴ちゃんは持ってねぇ〜よ?」
「違ぇだろ、手だよお前の」
貸せ、っと無理やり手を取り、一緒に上着ポケットへと突っ込んだ。
「...いや、なにこれ」
困惑気味に聞かれる。
その顔は、先程見た時より赤く見える。
「...つか、なんかその、ほら、あの...」
「何時ものハキハキしたテメェはどうした?お眠か?」
「うるせぇな...!普段こんな事しねぇだろうが...!!」
恐らく怒っているのだろが、振りほどかれなければ相手は満更でも無い。
...っと、何かしらの本に書いてあったのを思い出し、いつもの感じで続けた。
「何時もはお前が恥ずかしいとか言うから我慢してんだ。こんな人気のねぇ時間でくらい良いだろ」
「恥ずかしいとは言ってねぇだろ!」
「じゃあこれからは真昼間でもやるぞ?」
「ぐっ...」
俺がそう言うと、折れた様でそれ以上は何も言われなかった。
......此奴は嫌がるからやらねぇが、本当は周りに見せつけてやりてぇと思う。
本人に自覚は無いが、変な所でモテやがるから。
だったらせめて、こう言う二人きりの時に慣らしをするくらい許して欲しい。
そして続けて行けば、真昼間でも折れるだろう
「はぁ...ったく、早く菓子買って帰るぞ」
そう言うと、此奴は足早に手を引かれた。
...まぁ、今はこれで十分だ
と、俺は歩数を合わせる様に踏み出す。
ミッドナイト...とか、何とか。
空に浮かぶ星々が俺らを見てる様だと...有り得ない妄想をしながら。
「俺は少しくれぇ寄り道してもいいんだがな」
「俺は早く買って食いてぇからダメだ!」
#安心と不安
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時々、考える事がある。
自分が、ここに居ていいのかと
...だが
隣の此奴が、
「お前が近くに居るとよく眠れる」
「今日の飯も美味かった」
...っと、言葉にしてくれるから
家事の出来ない此奴の為に、まだ居てやろう、だなんて偉そうに思える。
安心と不安は紙一重。
助けられてるのは、寧ろ俺の方。
だからせめてもと、俺は今朝も弁当を詰めた
上手く書けなかった...(´・ω・`)
#逆光
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背中を刺す太陽の筋
それは、余りにも明るく
闇に点在する星々は
標識と言うには心許なく。
きっと、誰かが居たなら大丈夫だったのかもしれないかが
一人きりでは、余りにも。
夜は、暗すぎて
朝は、明るすぎて
何処でだって、誰の顔も見れず
どうにも、一人には厳しい世界世界で。
せめてもと背負った逆光の暑さだけが、ここに居るのだと示してくれているようだった
#こんな夢を見た
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無駄に残る畳と、木の匂い
ここに居るのだと主張する蝉の声
頬を伝うサラサラした汗
ただ映るのは、木目の多い天井
...所詮、ひと夏の風景に溶け込んでいると、デコに何やら冷たい感覚。
いきなりのそれに声を上げると、笑い声が一つ
「油断大敵ってやつだよ、ワトソンくん」
「いやなんで今ワトソン?」
身体を起こしながら問かければ、気分?だなんて曖昧な答えが返ってた。
まぁ何時もの事なので、こちらもそーかいと返すだけなのだが。
「そんな事より、ラムネ買ってきたから一緒に飲も」
「...ラムネなんて珍しいな」
「ずっと飲んでみたかったのだよ!」
「炭酸苦手なのに?」
「飲めなかったら代わりにもう一本飲んで欲しいな」
「もぉ、別にいいけどさ」
そう言って、青い瓶を受け取る。
中で転がる響いたビー玉の音も、プシュりと瓶の開く音も、妙に懐かしい。
「......そーいえばさ、夏祭りどうする?」
「!」
「折角だし、新しい浴衣を新調しようと思ってるだけ「あのさ」ん?」
「......夏祭り、行くのやめないか?」
俺がそう言うと、目を丸くしてこちらを見詰めてきた。
そりゃそうだ、前々からずっと、計画を立てていたのだから。去年は祭りが中止になったから、今年こそはって話していたのだから。
「...どうして?」
当然の疑問だ。
ミーンミーンと、蝉の声が頭に木霊する。
俺は何も言えず、押し黙る事しか出来なかった
「...言えない?」
「...ごめん」
「...そっか」
隣から、カランとラムネを傾けた音が聞こえた
「...ごめんね」
「!」
「一緒に行けなくて」
「ち、違う!元々、俺がたこ焼きを食べたいなんて言わなければ...」
...祭囃子の、音
「そんなことないよ」
「二日目に行かなければ...」
鮮烈に揺らめく、赤色
「私だって賛成したじゃん」
「違う、違う、違う」
「君が、気に病む必要はないんだよ」
「待って!待ってくれ―――」
そこで、俺は目が覚めた。
背中には、気持ちの悪い濡れた感覚がある。
燃えるほど暑いのに、体の芯は、あの時と同じく冷たい
「.........」
視界には、まだぼんやりと夢の―――あの日の、一ヶ月前の景色が映っている。
「......ははっ」
こんな夢を見たのなら、いっその事、閉じ込めてくれれば良かったのに。
あの、幸せな夢の中に