#君に会いたくて
―――
自分と彼じゃ、年齢とか、今の立ち位置とか、なんやらこんやら。
…そう言って、言い訳みたいな言葉(事実そうかもしれないが)を捏ねくり回して、どれだけ経っただろう。
煙草の火を吹かしながら、その煙を目で追っていた。
確か彼に呼び出されてからだったと思うから…ざっと数ヶ月前だろう。
『お前が好きだ』
学校の屋上。
まさに確定演出
これぞ学園モノのベタ!
…な所で、先生である俺が、生徒である彼に想いを告げられた景色は、今でもハッキリ覚えている。
もしこれが生徒間で行われていたのなら、俺も手放しに喜べただろう、思いっきり茶化せただろう。
だが、注目して欲しいのは”生徒と先生“と言う事。
どっかの漫画で見たなこの設定、いや小説だったか?
と、その場で思わず現実逃避をしてしまった。
…この際、男同士だって事には目を瞑ろう。
多様性やらと言われる時代だ、自分の生徒がそう言う感性を持っていたとしても驚きはしない。
ただ、”生徒と先生“と言うのはダメだと思う、倫理的に。
最近そう言う話が問題になったってのをニュースで聞いたよ、俺。
高校生の彼とじゃ、歳だって1回りくらい違う。
もうこのまま独身なのかなとかボヤいた時はあったけどさ、流石にこんな30路手前でとは思わないじゃん。
しかも、それが自分の生徒だと聞けば尚更。
茶化そうとしたら『言っとくけど本気だからな??』と謎の圧を掛けられたり。
勉強なんて知らね精神の彼が、その日を皮切りに授業に出始めたりだとか。
絶妙に俺が一人時間を探し出し、その度に雪解けよろしくな甘い言葉を掛けられたり。
『お前どんだけ先生の事好きなんだよー』と彼の友達が茶化す度、俺もそっちに回りたかったなと踵を返していた。
何時の間にか吸いきりかけていた煙草を灰皿に押し付け、新しい一本を取り出す。
『…じゃあ、この大学に受かったら考えてやるよ』
…そしてナニを思ったのか、そんな提案をしてしまった過去の自分を思い出し、頭を抱えた。
俺が指を指したのは、ここら辺でも有名な大学のパンフレット。
ここへ行けたなら『夢がない』と言っていた彼も、何かしらの刺激を受けれるのでは。
と、己が出した候補の中で、もっとも偏差値の高い大学。
それを、まさか告白の返事(仮)で言う事になるなん。
候補捻出の為、パソコンと睨めっこしていた時の俺に言ったら、間違いなく最初に頭を疑うだろう。
『いやちゃんと断れよ』と。
いくら衝撃的だったとはいえ、いくら真剣な彼の瞳に見つめられたからって。
あそこですっぱりと断っていれば、今こうしている必要はなかったのに。
あの時の彼奴の学力を考慮して、難しいと結論付けたのだろうか、あの時の自分は。
…だとしたら、なんと愚かな事だろう。
それとも、ただ俺としての有力候補は〜とか言ったのがイケなかったのだろうか。
彼の”超がつく程の負けず嫌い“を加味しないだなんて。
あんなの、闘神に火をつけるだけだと言うのに。
――その時、ガラガラと音を立て、教室の扉が開く。
…今日は、彼が受けた大学の合格発表日だった。
ここで待ってろと前日から言われ、教室で煙草を加えていた自分を見つけるや否や。
ヅカヅカとこちらに近付き、目と鼻の先にスマホの画面を突き出した。
××様
〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜
改めまして、合格おめでとうございます
詳しい所を気にする余裕は、なかった。
ただ”合格“と言う二文字に、俺は釘付けになっていた。
「ほら、約束通り大学受かったぞ」
不機嫌なのか、得意げなのかよく分からない顔でそう言われ、加えていただけの煙草をそっとしまった。
「……嗚呼、よく頑張ったな、おめでとさん」
そう言って頭を撫でれば、今度は分かりやすい雰囲気を出し、手をどかされた。
「違う事はねぇけど、そうじゃねぇだろ」
わんちゃん頑張ったのに俺の反応が薄い事に怒っているのだと思いたかった。
「ほら、俺からの告白の返事は?」
忘れたとは言わせねぇぞ?
と凄まれ、現実逃避していた思考すら逃げてしまった。
もう思考の海に埋まることも叶わない。
「……ご、合格おめでたいよなぁ!そうだ、受験期間が終わったら皆でお楽しみ会ってのも…」
「話も逸らすんじゃねぇ」
「うぐっ」
「俺は約束を守ったぞ」
「うぐぅぅ…」
そう言われてしまうと、何も言えない。
すぐ顔に出ると言われるこの顔すら憎い。
だが正常な思考でなかったとはいえ、あの時条件を出したのは間違いなく俺で、確かにそれを達成したのは彼。
ならば、自分も約束を守らねば教育者としての名折れだ。
「…因みに、この数ヶ月で気が変「わってる訳ねぇだろ」…ですよね〜」
この会話は、告られてからしつこく何度も聞いていた。
と言うか最終的には鬼の如く睨まれ、聞けていなかったのだが。
「……やっぱさ、こんな三十路のおっさ「それで、つかそれが良いって何度も言ってきたんだが??」…」
明らかに不機嫌よろしく状態である。
もはや何を聞いても即答されそうだ。
いや事実、今日に至るまで疑問やら疑念やらなんやらを殆ど吐き出し、答え切られているから多分そうなる。
ならばどうしょうか…
そう鋼索していると、彼は分かりやすく溜息を吐き、そのまま高まった圧で俺を壁際まで追い詰めた。
所詮少女漫画でみる壁ドンというやつである
「……俺は、お前からはいかYES…かいいえを聞きてぇだけで、質問していいとは言ってねぇぞ」
いや後からいいえの選択肢を付け加えられましても。
最初のはいorYESのあれで台無しなんだよ。
…とはとても言えなかった。雰囲気的に、俺の心境的に。
「……俺は、先生――あんたの諦めねぇ所に惹かれた。大抵の先生は、俺だからって殆ど相手にしやがらなかったのに。アンタだけは、俺にしつこく物申しに来たよな。最初は心底ウザかったさ。だが、それを日常にして、俺に色々教えてくれたのはアンタだろ」
そう言い、真っ直ぐ見つめられる。
…彼が嫌いかと言われれば、嘘になる。
最初は、生意気な奴だなと思っていた。
わざわざ注意してやったのに、返ってきたのは罵りのオンパレード。
なんだコイツ…と思た。思った…が、一人の姿が昔の俺と重なり、何だかんだと毎日話し掛けていた。
そしたら、好きな事やら食べ物やら。警戒心剥き出しの猫が、心を開いてくれるような。
そんな気持ちを徐々に感じて。
…そこまでなら、良かったのに。
何時も握り飯一つの彼に、お弁当を作って。
それを、年相応とも、幼いとも言える。
そんな顔で、美味しいと言わんばかりの顔で食べられて。
が弁当を空にした時には、もう既に俺の歯車は狂っていたのだろう。
そもそも、彼から告白され驚きはしたが、嫌な気はしなくて。
同性がーとか年齢がーとか、彼奴とー?となる所を吹き飛ばしその話にまで思考が行っている時点で、自分でも薄々気が付いていた。
だが認めてしまえば、後には戻れない。
こんな俺に何時まで愛想を持ってくれるか。
…また、一人置いていかれるのは嫌だから。
想いを逸らそうと、してきたのに。
「………嫌なら、スッキリ断ってくれよ」
過去の俺が言いそうなセリフ、そのままに。
「…アンタが本気で拒絶しないんなら、今度は俺が、アンタに会いに行くぞ」
『お前が本気で拒絶しない限り、俺はお前に会いに行くからな』
昔本当に、俺が彼奴に言った事を、そのまま続けた。
「…覚えてたのか」
「はっ、俺がアンタに惚れたきっかけの言葉だ。忘れるんけないだろ?」
今度は得意げに言われ、何だか笑えてきた。
……嗚呼、彼は会い来てくれるのか。
置いていかれた、俺の元に
そう思ったら、もうダメで。
「…良いのか」
「あぁ」
「俺は男だぞ」
「色んな考えがあるって散々俺に教えたのはアンタだろ」
「…三十路手前だぞ」
「それでいい。理由にならねぇよ」
「……教師と、生徒…」
「春からは”元“がつくがな。それに、法律的にはもう未成年じゃねぇから」
「………」
「他に言いてぇことはあるか?」
何故だか、嬉しそうに彼奴が笑っている。
まるでもう、勝ちを確信しているように。
俺はそれに顔の熱を感じつつ…仕返しとばかりに、耳元で言ってやった。
「…本当、俺はさ―――」
#閉ざされた日記
――戻らない日々を想う――
埃を被った、一冊の本が見つかった。
「こう言うのは、住処を変えた時に捨てたハズだが…捨て忘れか?」
無意識か、そう呟きつつ
彼はおもむろにページを捲った。
…散乱した物から、目を背けている様にも見えるが
「うっわ懐かし…いやこんなん書いてたっけな…?」
眉を顰める彼の目線には、日付から始まる文面が綴られていた。
何文も書いているページから、一言しか書いていないページ等が、書きなぐった様な字で並んでいる。
「つかここ、字汚過ぎて読めないんだが…あ、ここ落書きされてんじゃねぇか!」
所々綺麗な字や達筆な字、宇宙人らしきイラストがかかれているページもある。
まるで誰かに話しているように、リアクション多めで話しているが、その顔は何処か柔らかい。
「……よく続けてたなぁ…俺」
三日坊主で飽きてそうなもんなのに
と、自虐的に笑いつつ、捲る度に増えている落書きやらを眺める
「………捨て忘れじゃなかったのか」
それだけ言って、彼は読み終えた本を戻した
…勿論ゴミ袋ではなく、戸棚の中に入っている箱の中へ。
そのままぼーっと数分、窓の外を見詰めていると。
下の階から、帰ってきたであろう彼の同居人達の声が聞こえてきた。
「………………あっやべ!」
そこで漸く周りの散乱っぷりを再認識し、いそいそと戸棚に突っ込んだり、ゴミ袋に詰めていく。
片付ける前とそこまで変わったか?と見た者に言われそうな状態ではあるが、今は目を瞑っておこう。
…結局、あの閉じられた日記の中身は、彼と、昔の記憶に居る彼らしか分からない。
ただ分かるのは、閉じた記憶が、彼にとって良いものだったと言うことだけであった
「ただいま〜ってちょっと!!なんですかこれ!!
「私達が出たあとからほとんど変わってないね」
「いっいやー、思い出に浸ってたら、つい…」
「つい…じゃないですよ!!まったく…ほら、片付け直しますよ」
「え〜しまったんだからいいだろ」
「良くないんです!!」
#木枯らし
ある寒い秋の日、彼奴が言った
「明日の風はね、冬の来る知らせなんだよ」...っと
聞いた当初はふーんとしか思わなかったし
その内忘れるからいいやとも思っていたし
聞いてもないのに、他にも色々言っていた気がするが
そんな事より、目の前にある甘味の方が
おれには余っ程魅力的だった
-
「...なのに、んで今になって思い出すかねぇ」
惜しむ様に落ちていく葉を見詰める
思っていた通り殆ど覚えていないが
何故か今、その話の記憶が浮かんできた
だが、こう言う変な事ばかり記憶に残るのは
もはや人間の特性なのではないだろうか
ポッケから煙草を一本取り出し、火をつけて
そのまま一息、空へ向かって吐き捨てる
今になって思い出してみても
あれは何の変哲もない、雑談の一つだった
...そうだった、はずなのに。
あの時、木枯らしは秋と一緒に
彼奴まで吹き飛ばしてしまった
秋と違うのは、巡って戻ってくる訳じゃない事
どうせなら、秋と一緒に...
そうしたら、少しの間離れる事くらい...
―――そこまで行って
半分もある煙草を灰皿に押し付けた
どうやらこの風は
冬と一緒に、俺の変な気まで運んできたらしい
全く、ただでさえなのに勘弁してくれよ
そう思いつつ、俺は部屋へと引き返した
いつの間にあの葉っぱは
どこかへと姿を消していた
#美しい
人によって、感じ方は違うだろう。
様々な、表し方があるだろう。
人は、言葉を探す
その想いを、余韻と共に表す為に
でも結局、最後にはその一言だけが残る
”美しい“
と。
心惹かれ、つい零してしまう。
そんなナニカに、何時か出逢いたい
#この世界は
最初から、光なんてなかった
心の埋め方が分からなくて
ただ縫って、繋いで
そうして自分のモノにするしかなかった
それも一時的で
飢えては縫って、飢えては縫って
ダメだと知った頃には、何もかも縫い目でぐしゃぐしゃで
ただ、終わりにして欲しいと
神様に縋るしかなかった
…そんな時、彼に出逢った
出会いは決して
良いとは言えないのかもしれないけれど
私にとっては、最良だったと思う
今にも解けてしまいそうなソレを
彼は乱雑に、でも何処か優しく引っ張り直してくれた
いるかも分からない神様とじゃない
彼と、私。二人の誓いを、忘れず叶えに来てくれた
…この世界は、私に光を差してはくれなかった
でも私には
光なんて要らなかった
一緒に闇を歩いてくれる、彼さえ居ればいい
彼は私の信じた
神様なんかじゃないけれど
私と彼、彼と私。それで良いって教えてくれた
きっと、彼を私のモノにはできないれけど
彼のモノになら、なっていいと思えたから
夜の闇に、手を繋いで、私と彼は飛び出した
―――天使に魅入った、とある魔女のお話
※勝手な解釈を込めた二次創作でした