【耳を澄ますと】
耳を澄ますと、どこからか聞こえてくる子どもの笑い声、
耳を澄ますと、どこからか聞こえてくる幸せの音。
耳を澄ますと、どこからか聞こえてくる助けてください。
耳を澄ますと、どこからか聞こえてくる戦争の音。
当たり前のように違っているこの世界で、当たり前にある幸せの裏には、どこか遠い国で戦争が起きている。
悲痛に嘆き、苦しみ、「助けてください…、どうか、どうか大切な人を失わせないでください…、」そんな願い乞う声が響いている。この地球という名の丸い星にこだましている。私たちの当たり前に聞いている幸せの音は、誰かにとっては、手の届かない場所かもしれない。
耳を澄ますと聞こえてくる爆発音、発砲音、たくさんの悲鳴の中へ、助けようと手を伸ばしても、その手は決して届かない。それが、この星。地球である。
同じひとつの星にいるのに。地図の中ではすぐに手は届きそうなのに、現実はこうも残酷で険しいのか。
崖よりも、谷よりも、富士山やエベレストよりも、高く長い壁があったとして、乗り越えられる確信などないのに、諦めずに生きなさいなど、無責任なことを言われるのだ。
今日も、耳を済ませば、あるところからは笑い幸せの声、あるところからは、苦しい悲痛の叫びの声が響いてくる。
【優しさだけで、きっと】
君の声が聞こえた。
―――――――――――
優しい声だった。波一つない水面に、そっと触れるように、大切な物を、そっと、大事に両手で包むように、
壊れ物に触れるかのように、そっと、優しく。
そんな声と喋り方だった。
なぜそんな喋り方をするのかは分からなかった。だが…、
何故かそれがとても心地よかった。
君の薄い唇から音が漏れた。空気が震え、僕の耳まで届いてくる。柔らかい音だった。
人を包み込むような、そんな音。
あの時の僕は、社会の逆境というものを知らなかった。
今、あの子の声を思い出すと、何も言わずとも、優しく黙って辛いことを聞いてくれてるような気がして、
目から1粒雫が落ちて、それは次第に雨になる。
あの子は今、どんな生き方をしているのだろう。
【生きる意味】
生きる意味ってなんだろう。最近しばしばそう考えることが増えた。
俺は大して何か偉業を成し遂げた訳でもない。
社長でもオーナーでも、会長でも…、ましてや、どこかの国での大統領様でもない。ただの人間だ。
学生時代は、大人になったらこうなる。こうなりたい。
自分の夢を追っかけてただひたすらに突っ走ってることが楽しかった。だが大人になってからはどうだ?
毎員電車に上司にヘコヘコして、家族がいりゃ養わなきゃならない。独り身なら寂しいと思うやつもいるだろう。
どうせ…、所詮そんなもんなんだ。現実なんて。
俺らがあの頃、キラキラした目でかっこいいと思って憧れ、羨ましがっていた大人の世界は、思った以上に過酷で、残酷なことも多かった。
子供の頃でも、死にたいと言う奴も多々居た中、大人になってから俺らの中でそれがさらに増えた。
社会の波に押しつぶされ、人混みに揉まれ、掻き消される。そうならないようにどんだけ必死に足掻いても、また潰される。どんだけどんだけ必死に、すがって、抗って努力しようとも、意味はない訳では無い。だが、ほぼゼロに近い。この世の中、子供達はまだそれを知らない。あの頃の俺らのように。だが、ふと思った。
あの頃…、あの笑顔、あの青春、かけがえの無い時間…、友達とのまた明日。今思えば、当たり前だと思っていたものばかりが大切だった。失ってから気づくものばかりだった。友達との喧嘩も、言い合いも、テストの競い合いもない。寂しい。物足りない。そう気づいた頃にはもう…、何も無かった。
だが、親が愛をもち産んでくれたこの体、この人生、捨てる訳には行かない。きっかりと恩は返してやる。
またあのころの学生時代を取り戻すために、
感謝すべき人に恩を返すために…、俺は今日も生きる。
それが俺の"生きる意味"だ。
【大切なもの】
学校の授業で大切なものという内容の作文の宿題が出された。みんな不満そうにしていた。そんなもの分からない。
口を揃えてみなそう言っていた。僕は、昔誰かから聞いたことを書くことにした。次の日の学校では、順番に読んでいくことになった。みんな緊張したり、ふざけたりしながらも読んでいた。僕の番が来て、僕は立ち上がって読み始めた。
「大切なもの。
これは、とある人から聞いた話で、僕はこれをずっと覚えています。その人の言葉は、
"自分が好きな人より、自分を好いてくれる人を大事にしなさい。"というものでした。僕は、何故だろう。と思いました。自分が大事だと思っている人、好きだと思う人、本当はそんな人達を優先した方がいいと、その時までは考えてました。ですが、そのとある人はこう言いました。
この世には何億人の人がいると思う?
そんな中で自分を好いてくれる人なんて貴重な存在でしかないんだよ。
例え、自分がどんなに嫌いな人が、自分のことを好いていても、それも、何億分の一かの確率で自分のことを好きになってくれたんだよ。だから、自分が好きだと思う人も大切に大事にすればいい。
だがそれよりも、自分を好いてくれる人が、どれだけ貴重なのか、それを忘れちゃいけないよ。
いつかその有難みが、きっとわかる時が来る。
けどね、どうしても無理なことがあると思う。
その時は、無駄に傷つけずに、そっと離れなさい。それが、いちばん大切なんだよ。人間いつか、みなどうせいずれ死んで同じ骨の屍に、ムジナになるんだから、今居てくれる人を大事にね。失ってから初めて気づくこともあるけど、それじゃ遅いんだよ。」
作文が終わると、みんな少し潤んでいた。
泣いている人もいた。教師は、驚いていた。
でも、少しだけ何故か、クラスの雰囲気が軽くなっていた。確かにそうだ。みんなが頷いた。大切な物は、いつも近くにあると、その人は教えてくれた。
【エイプリルフール】
今年も来た。この時期が。もう4月だ。
桜は咲き、花びらはまだ散らない。
儚く、短く美しい花の笑い声が飛び交う季節だ。
その桜の下、僕は君にこう言った。
「もしも大人になったら、結婚しよう。」
付き合ってもない。ただ、お互いに昔からの幼馴染だった。
君はエイプリルフールだからでしょ。と、笑って見せたが、僕は真剣だった。
「エイプリルフールは午前までだよ。今は午後、嘘じゃない。僕は本気で言ってるんだ。
君も僕も大人になって恋人が出来るかもしれない、
本当に好きな人が出来るかもしれない。
けど…、
けどもしも、大人になってもそんな感情を持つ人がいなかったら、君と結婚したい。」
君は目を見開いて、驚きで固まって声も出さぬまま、顔を赤らめて、泣きそうな程に潤んだ目で、
「なら、今からプロポーズして?」
いつの間にか、彼女は泣いていた。
僕は予想外の言葉に驚き、固まった。
今度は逆に、僕が泣いて顔を赤らめて、君と抱き合った。今日はエイプリルフール。皆が軽い嘘や冗談を言い合う日。
だが、このプロポーズも感情も言葉も、全て嘘じゃない。
「改めて、僕と結婚してください。成人しないと結婚はできないけど…、今から、僕が予約して、君を独占したい。エイプリルフールじゃなく、本気で、僕は君を愛してる」