「いつまでも捨てられないものがあるんだ。」
彼はそう言った。
「それは本当にかい?」
僕は疑問に思ったから確かめてみた。
「嘘じゃないさ。」
「思い入れが深いものなのかい?それとも形見とか?」
「そんなところさ。」
「そうなんだな。
けど、捨てられないって言うとちょっとよくないんじゃないかい?」
「あー、たしかに。捨てたいけどが捨てられないものって勘違いされちまうよなぁ。」
「そうそう」
「そうなんだけどなぁ。本当は捨てたいんだよ。」
「大切なものなのになんで?」
「その時の記憶がよみがえるだろ?
必ずしもいい思い出だけじゃないってことさ。」
「なるほどなぁ。ならそこに捨ててみれば?」
「どうするかなぁ。形見で大切なものだけど、後悔とかもあるし、ある意味自分を戒めるためにも持ってるんだよな。」
「けどもう、大昔の話だろ?
俺が変わりに捨ててやるよ。」
「お、おい💦」
水の音とともに、ソレは沈んでいった。
「はい、これで捨てれたな
後ろ向いてないで、前向いて行こう。」
「そうだな。いつまでも後悔するのはよくないよな。
ありがとう、ちゃんと進むよ」
「おう、急に捨ててゴメンな、こうでもしないとこの先お前の笑顔見れなくなりそうでさ。
思い切っちゃった」
「いいよ、モヤモヤしてたのは事実やし、助けられた気もするからさ」
「ならよかったわ、あんまり自分責めるなよ。
俺が捨てたから共犯。痛み分けってことで!
んじゃ、また明日な。」
「ありがとう。お前がいてくれて助かるよ。」
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「さーて、これどうすっかなぁ。」
こうして、僕の捨てられないものが1つ増えた。
夜の海を眺めながら、その人は呟いた。
「―帰りてぇなぁ。」
そんな僕は今、彼の隣でひっくり返ってしまい帰れなくなっている亀だ。
「ん?君もそんな状態じゃ帰れないな。」
そう言いながら彼は僕を助けてくれたのだ。
「ありがとう!」
僕はそう言った。
すると彼が驚いた顔をして、こちらを見ながら
「君はしゃべれるのかい?」
その瞬間、僕も同じ顔になった。
「仲間とはよく話しているけど、人と話すのは初めてだよ。」
「何かの運命かもしれないねぇ。
ところで亀くん、この海に夜だけ辿り着ける島があるらしいんだけど、知らないかい?」
「聞いたことないねぇ。
でも、僕の住処は毎晩形を変える島だよ?」
「亀くん、その島へ案内してくれるかい?」
「いいけど、人のお家もなにもない、寂しい島だよ?」
「それでいいんだ。頼むよ。」
「助けてもらったからね!任せてよ!」
亀は勢い良く海に入り、彼が乗る小舟を先導した。
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しばらくして、亀の住処へ案内した。
「おぉ。。ここだ。
やっと帰れる。」
島に上陸した彼が空を見上げながらそう呟いた。
「帰れるって、なにもないよ?」
ぽかーんとした顔で、僕は言った。
「いあ、ここで間違いないよ。
ありがとう。」
「先に助けてもらったのは僕だしね!お互い様だよ!
それで、どうやって帰るの?」
「―君には話しておかないとね。」
島を一周した彼がそう言った。。
「君が毎晩形を変えるといっただろう?
それはね、月と同じ形になるからなんだ。」
「そうなの?僕は海からしか見てないから知らなかったよ。」
「そう。我ら一族に伝わる伝説の島、月映島っていうんだ。」
そう言いながら彼は地面に模様を書き始めた。
「そうなんだね。よくわからないけど、見つかってよかった。」
「うん。本当にありがとう。君のお陰で故郷に帰れるよ。
これで完成だ。
君に、またお願いがあるんだけど頼んでいいかい?」
「うん。」
亀が海から首を出してそう言った。
「また、あの海岸に人が来たら話しかけて見てほしいんだ。
僕の仲間かもしれないからね。」
「話しかけるだけでいいの?」
「うん。話しかけてみて、君の声が聞こえれば、それは一族の者だと思う。
確証はないけどね。実際私が聞こえているからね。」
「わかったよ。それぐらいなら任せて!」
「君の声が聞こえる人はこの島に案内してあげてほしいんだ。
みんな故郷に帰りたがってると思うから。
そうだな。案内役として、名前がある方がいいな。」
「名前?亀くんとしか呼ばれたことないかな。」
「なら、今日から月泳亀と名乗るといいよ。」
「名前なんてつけてもらったことはないけど、嬉しいよ!
どんどん君の仲間を故郷に送れるよう頑張るね!」
「ありがとう。それじゃあ頼むよ。」
そう言って光る模様の中から彼は一瞬にして消えてった。
「よーし、同じような人を救うぞ―!」
月泳亀は夜の海へ消えていく。
ただし、月泳亀は知らなかった。月の民が何を成そうとしているのかを...
「お前今、自転車に乗ってる?」
イアホン越しに声が聞こえる。
「こんないい天気の日に乗らないといつ乗るんだよ。」
そう言い返した。
「ってことはずぶ濡れになってんのか。」
「そうだねぇ。めちゃくちゃ気持ちいいよ。
心が洗われる。」
「授業で学んだけどさ、綺麗な水ではねぇよ。」
「大丈夫、向う先は温泉だ。」
「なんて客だよ。風呂入る前から浸かってるようなもんじゃねぇか。」
「温泉入っても長くて小一時間ぐらいだろう。
帰りはどうすんの?多分雨やまないよ?」
「ん〜、だって君がいるじゃないか
ってことでよろしく」
そう言っても通話を切った。
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「明日自転車取りに来いよ」
「わかってる、ありがとうな」
「ん〜、お互い様やろ。」
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「いつもならこのパターンだったんだけどなぁ。
あっちでも元気にしてるかな。」
「君の心の現れかい?」
「あの日から雨の日に自転車はやめたよ。」
「また、ね。」
そう僕は、虹に語りかける。