NotNoName

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5/23/2024, 6:23:12 AM

「せんせー さよーなら またあした ばいばい」
母親の迎えがきた後のお決まりの挨拶だった。

卒園する日にいつもと同じように挨拶をするとまた明日はもうないねと先生が小さく笑っていたことを憶えている。

またはないんだ。そのときはその意味をあまり理解していなかった。涙もでなかったし周りの大人達が子ども達へ寂しげに話し合っている光景が少しいびつに見えていた。

先生や親達が悲しい顔を作っている。それが違和感だった。ふりをしている。実際悲しみはあっただろうがそれをそのまま表にするのではなく、さみしいねと子どもに寄り添う為の顔をしているのように見えた。

今ならそうすることも理解できる。そしてそれが寄り添うようで本当は促していることもわかる。別れは寂しいものと雰囲気で教えている。子どもがさみしいと言う前に寂しいねと先回ることで子どもの気持ちを先導している。

道徳はこういうときに知らず知らず身に付いていくものなんだろう。心の底から別れを痛感する術をまだ持ってなかった幼い自分は大人達の外側にいた。

悲しいけど悲しい顔ではなく悲しそうな顔をする大人。きっと葬儀屋もそうだと思う。本当の悲しみの一部が他人の為に見せる悲しみに混ざっている。

思い切り泣いている他の子ども達と大人達の違いはそこにあった。その差をわずかにだけ感じとれていた自分はそのせいで余計に別れの場面で泣けなかったのだと思う。

今もし誰かとまたはない別れをしたら自分はどんな顔をするのだろう。もう大人の内側にいるが思い切り悲しみがそのまま表にでるのだろうか。これが成熟なのか喪失なのかもわからない。

きっと両方なのだろう。

5/19/2024, 2:41:32 AM

カラオケ映像で流れるチープな恋物語は
きっと人類をバカにした宇宙人が作っている

だいたい街中以外には海岸か芝の広い公園がロケーション
運命的な出逢いを経て何かしらの共同作業の後
自宅で一人相手を想うパートもマストで入る

花や果物あとは手紙も登場したりする
なぜか連絡手段として公衆電話も活用する
ファションセンスは永遠に平成初期で止まっている

最初から失恋スタートパターンもある
その場合の男女は夜の都会を背にシビアな表情をしている
男は黒のタイトなシャツを着て目線は絶対カメラから外す

ツッコミどころが多すぎて正直歌わずに見ていたい
恋愛というか恋愛ドラマあるあるを意識したかのような
実際の恋愛に抽象に抽象を重ねた映像の味わいが好きだ

あれが映しているのはもはや概念としての恋愛だ
超うっすいイデアのような恋物語の垂れ流し

簡単に言うと人間の恋愛なんてこんなもんでしょという
結果としてバカにしているような映像がたまらない

まるで人類を外側から観測しているような
カラオケ映像の監督はきっと地球外生命体だ

5/18/2024, 7:52:13 AM

「この時間だと世界に私たちしかいないみたいだね。」

真夜中の路上。ロマンス溢れる瞳でこちらを見つめながら彼女が言ったその"私たち"の中に側にある公園で泥酔し倒れている若いサラリーマンが含まれているのか考えていた。

付き合い初めて2ヶ月。普段大人しい彼女は二人きりになると大胆になることを僕は知っている。そして一度そのモードになると手がつけられなくなることも知っている。

恐らくではなく確実に彼女は今僕以外の他人の存在を認識していない。身体の距離が近くなっていっていることがその証拠だ。ときめきがサラリーマンを抹消している。

彼女に恥をかかせないためにサラリーマンのことを伏せてそれとなく場所を移動したいがモードに入っている彼女の雰囲気がそうはさせてくれない。

いっそ人がいることを直接伝えるべきか。しかしそれも結局彼女に恥をかかせてしまうには変わりないだろう。何より彼女の作るロマンスがその選択肢も遠ざけていく。

あれこれ思考を巡らせていく内に顔と顔が近くなり次第に何も考えられなくなっていた。そうだもう他のことはどうでもいい。このまま彼女を受けいればいい。それだけだ。

意識の焦点が目の前のことに極限まで合わさったとき。
近くでコール音がほんの数秒間だけ鳴った。

「もしもし。はい、はい。本日はご迷惑おかけしてすみません。はい、あの後無事に乗り継ぎしまして今は自宅にいます。すみません、ご心配ありがとうございます。はい明日の出勤はもちろん問題ありません。はい、今後お酒は控えます。社会人としての自覚が…」

サラリーマンが突然蘇生し嘘をついている。そしてその通話が終わった直後におそらくスマホで現在の時間を確認したのだろう。何かを悟ったような表情しその場にまた寝倒れた。

ほんの一瞬の出来事にロマンスも息の根を引き取り僕も彼女も普段以上に冷静になった。

「やっぱりもう時間遅いし急いで帰ろうか。」
彼女はこくりと小さく首を縦に振りお互いそれ以上は何も言わず真っ直ぐ帰路についていった。

世界に誰もいないかのように虫の音だけが聴こえる。

5/17/2024, 10:20:19 AM

愛があれば何でもできる

と嘘でも掲げて無理をするのが愛の概念なのかもね

かつて宗教が教義をその概念を活用して説明したように通常から逸脱した行為の根拠となるものが愛なんだと思う

あとお題の何でもという誇張表現が言葉に無理をさせてるような形態でまるでそれが愛の特徴を示しているみたい

世界一好きとか 永遠に誓うとか 何杯でも食べられるとか

誇張表現は愛

5/16/2024, 4:52:49 AM

選んだという感覚が後悔を引き連れてくる

今日の空模様自体に悔やむ人がいないように
人は自身が因果関係の外にいることには後悔はない

自由意志を持ち自ら選択し因果の内にいると
そう信じているときに初めて後悔が現れる

しかしスピノザが言うように人は結果しか知り得ず
原因は捉えきれないとすればどうだろうか

今こうすることを選んだという自分の意志も
そうさせる捉えようのない原因に従っていると

この決定論は因果の内に自身を置きながら
その繋がりを透明にすることで自由意志を否定する

自由意志を前提とした責任社会においてこの思想は
あまりにも無責任極まりない不合理なものだ

だけど自責や後悔に押しつぶされそうなときには
この不自由な思想が考えを開放する術になると思う

肯定と否定を使い分けて自由意志を自由に信じる
一貫性よりもその曖昧な態度こそが人の強度であると思う

スピノザが本当にそんな思想であるかの責任は取りません

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