お別れの日 天気は予報通り晴れていた
十年来の友達が転職で遠くの町へ引っ越す
今日は引っ越し前の二人で会う最後の日
予約したお店で華やかな料理を前に彼女とおしゃべり
昔からの憧れの仕事でやっと夢を叶えられたと笑顔で言う
それが夢だったことなんて私は当たり前に知っている
だから私も笑顔で送り出したい なのに上手く笑えない
今日をお祝いの日にしようと決めたのは私だったのに
喜びだけではない感情が混ざり合って渦巻いている
食事を終えて外へ出ると予報外れの天気雨が降り出した
二人とも傘を持っていなかったので駅へと駆け足で行った
結局、別れの言葉を上手く言えないまま友達を見送った
今日見たあの笑顔を引きずって一人だけの帰り道を歩く
晴れなのにまだ降り注ぐ天気雨は私を表している
私は肩をすくめて抱えていたものを頬へ伝わせた
今ならその雨の柔らかさに許された気がして
一筋の光を無視して歩く
希望や救いには距離を置く
近づくとすぐ絶望だとか言い出すから
オーバーな言葉の嘘っぽさが苦手
夜の自販機ぐらいのだらしない光がちょうどいい
夕方 公園 飛んでいったボールを拾いに行く子
一瞬で離れたものを時間をかけて追う
輪のために輪から外れていく
追いかける小さな背中には哀愁が漂っている
そのとき地面を蹴る脚の疲れはその子だけしか知らない
鏡の中の自分
鏡像を自分と認めたことが自分の始まり
他者への自己同一が自己像の始まり
自我の原初には他者
鏡は自分を映すものではない
眠りにつく前に眠りについて考える
数年前の記事で生物は起きている状態よりも眠っていることの方がデフォルトであるという言説を見たことがある
信憑性は定かではないが感覚としてその言説に共感した
起きていることが異常事態と捉える感覚
物言わぬ貝のような状態が普通であるというイメージ
意識を獲得するよりも以前の静的なイメージ
眠りにつく前にそう想像する
何かを常に捉える意識がある前の状態を意識する
その矛盾的な意識が何かに溶け込む感覚を与える
個体以前の未分類の身体をイメージする
枠のない枠のような矛盾した身体を
眠りの形而上学
どこかへ還るように私は眠る