お題「枯葉」
俺には、幼馴染だった妻と、二人の子供がいる。
今は家族と実家に帰っているので、昔よく妻と遊んでいた公園に、子供たちを連れていくことにした。
少し歩くと、大きく立派な木が一本、姿を現した。
根元を見ると、大きな枯葉が大量に落ちていて、それを見るなり俺は、小さな記憶がぼんやりと蘇ってきた。
もう随分と幼い頃、将来俺の妻になるなんて予想もしていなかったこいつと、この木の枯れ葉を使って遊んでいた。
枯葉に指で二つ穴を開け、その枯葉を顔に当てる。
『見ろ! 枯葉のおばけだぞー!』
『きゃー、食べられちゃうー!』
『『あははははっ──』』
俺はそれを再現して、子供に見せてやった。
「ちょっと、それ懐かしいわね!」
どうやら妻も当時のことを覚えているようで、大笑いした。
ヒーローものが好きな息子はもちろん喜んだ。
「うわぁ! 枯葉の化け物だ!」
が、娘の一言で、俺と妻は一瞬、フリーズした。
「きゃー、食べられちゃうー!」
「「……」」
次の瞬間、俺と妻は腹を抱えて笑った。
「やだ、そのセリフ!」
「あの頃のお前と同じこと言ってるな!」
この枯葉が、子供たちにとって、小さな思い出として残っていたらいいな──なんて、俺は夢の見過ぎだろうか。
お題「今日にさよなら」
今日、ずっと好きだったあなたに告白をした。
でもあなたには、ずっと前から彼女がいる。
私はそれを知っていたんだ。
彼女からあなたを奪おうとしたわけじゃない。
ただあなたに、私の気持ちを知ってほしかっただけ。
ずっと想っていたあなたとは今ここでさよなら。
そしてフラれてしまった今日に、さよなら。
悔しいけれど、悲しいけれど、私は前を向く。
お題「お気に入り」
お気に入りのお人形は、大事に扱わなくちゃ。
お気に入りのお人形は、大切にしまっておかなきゃ。
誰にも渡さないわ。このお人形だけは。
私だけの、お気に入りだから。
でも今日は、なんだか気分がいいの。
少し派手なお洋服を着て出かけましょう?
綺麗に着飾ったあなたは、私の隣を歩くの。
ほら、私たち、完璧じゃない?
たくさんの人が私たちを見て、噂をしているみたい。
やっぱりあなたは最高よ。愛しているわ。
でもよく考えたら、あなたのことを誰にも見られたくない。
あなたも、他の人のところになんて行かないわよね?
うぅん……不安だわ。
やっぱり、お気に入りは箱に大切にしまわなきゃ。
誰にも見つからない、私だけが知っている場所に。
これで、本当に私だけのものね。
お題「誰よりも」
僕はこの学年で、誰よりも成績が良い。
定期テストはいつだって1番。僕のことを勝手にライバル視して、競っている奴もいるらしいけれど、一度も抜かれたことはない。
「なぁ、この問題教えてくれよ!」
「いいですよ。この問題は、この公式に数字を当てはめていくんです。簡単なパズルですよ」
「おおお! すげぇ、わかるぞ……! さんきゅな!」
全く、お易い御用だ。
「俺にも教えてくれよ!」
「アタシもここわかんない!」
僕はこの学年で誰よりも知識がある。
けれどその代わりに、誰よりも──
「ねぇ、私にも勉強……教えてくれる?」
「あっ、えっ……も、もちろん……です」
誰よりも、恋愛というものには疎かった。
お題「10年後の私から届いた手紙」
私にできることは、恐らくもうないのだろう。
きっと誰も、私に期待なんてしていない。
私に、この世界で生きていく勇気なんかない。
ねぇ、もしも10年後にまだ「私」がいるのなら、何をしているの? つらいよ、助けて──
聞こえてくるのは、鳥の声。
見えてくるのは、太陽の光。
手に触れたのは──
「手紙……?」
おはよう。今日も、目が覚めたんだね。
体調はどう? ゆっくりでいいんだよ。
何事も、焦らないで。自分のペースでいいんだからね。
何もできない、なんてことないよ。
生きているだけで、偉いんだよ。
あなたの10年後は、今も生きてる。
「私」が、私を生かしてくれてるの。
おかげで、素敵な人と巡り逢えた。毎日が幸せです。
ありがとう、10年前の私。
視界が霞んでいて、文字が読めない。
「もう、これじゃまるで物語じゃないっ……」
私は、捨ててしまおうとしていたこの体を、手紙と共に抱きしめた。これ以上、ないくらいに。
10年後の私が、その先もずっと生きていけるように、私は「私」と共に生きていくことを、心に誓った。