硝子の星空に閉じ籠り、永遠を希う
徒労であると知りながら
明日など来なければ良いと、頭を抱えて叫んでいた
責め苛むような耳鳴りも
扉を叩く彫像と、隙間から駆け込む凍て付く風も
全て、全て、掻き消してしまいまくて
膨張する宙の片隅へ紛れて消えたくて
筆が折れるまで綴った荒削りの終末は
結局、柔い肌を傷付けるばかり
血の滲む掌を眺めて、幼い私は絶望を知った
雷霆が告げる
この胸の鼓動が続く限り、幾度の夜を越えても
そしていつか、物言わぬ骨に成り果てようと
一度芽生えた影は私の中で待ち続けるだろう
跡形も無く砕けてしまう終末
天と地が翻る酷寒の季節を
それでも、今は不思議と怖くないのだ
耳を澄まさずともあなたは鳴り響く
私に届くよう、奮い立つ一閃を放って
それは虚空を切り裂いて訪れた出逢い
私が初めて心から求めた永遠
あなたを離さない
例え底無しの闇へ連れて行くことになろうとも
重なる手は雪解けの朝
ただ一言交わすこともなく、互いの瞳に落ちていく
(ただ君だけ)
小さな肩に運命とやらを背負い、君は旅をする
戦わずとも血は流れ
送り出すことに慣れない瞳へと降り積もる
灰より淡く、雪のように儚く
褪せた世界を乗せて飛ぶ
一人では生きていけないくせに
まるで羽虫のようだ
片手で握り潰せる程度の希望なんて
立ち止まってしまえ、眠ってしまえばいいのに
棘から滲む罰を抱いて、君は笑みを崩さない
君を愛してなんかいない
初めからずっと、気持ちが悪いと思っていたさ
枯れた花々を屠り、報われない片想いを続けてる
靴裏に染み付いた腐臭、似合わない嘘
群がる羽虫と同じように、心底嫌っているとも
ある意味、想ってもいるけれど
だって化け物みたいだ
串刺しの蛮勇を吐き出して、華々しく散る為の機構
折れることを許されない
細枝から咲かせる大輪の花
壊れないよう、大切に、壊れないように
調整される不可視の炎
魘されてようやく迎える朝に、青い月を浮かべる顔
とっくに見飽きた辛い海
飢えているくせに、本当は枯れそうなくせに
絞り出す汎用の笑みが大嫌い
僕が知っていることを、君も知っているのだから
僕にぐらいは打ち明けてしまえばいい
君と出会った記憶の奥で、またいつでも迎えよう
蓋を開けて解き放つ
口を開けて飲み込む
そうして夢の終わりまで手を引いて
共に落ちて行きたいのに
君の足音はまだ聞こえないな
(静かなる森へ)
そしてあなたは紡ぎ出す
災禍を招く愛の詩
崩れる雫と乱れ髪
聞き届けるは鉄の樹海
願い賜うはただ一つ
空の腕が抱く一つだけ
無機質の神は夢を見るか
他愛無い木漏れ日の隅
あるいは百花繚乱の荘園を
心臓を投げ合い
肺を破いて嗤う世界
鈍色の天から睥睨するか
無垢の涙を流して見せるか
それでもあなたは奮い立つ
贖うは天に在らず
弔うは地に在らず
例え続く足音が無くとも
その心、その手足、燃ゆる心臓
過去の軍勢が押し流す
濁流はやがて揺籃へ
偽の太陽を撃ち落とし
月を砕いて歩き出す
(届かない……)
僅かに手を伸ばせば、爪先を彩る黄金色
花舞う園で狂い咲く
あなたと結ばれた春に戻れたなら
もう一度だけ、その背に寄り掛かって唄いたい
きっとそのまま眠ってしまうけれど
あなたはそっと微笑みながら
私を抱き上げて、代わりに唄って
たまに外れる不器用な音が好きだった
焦げた頁の片隅に書き殴った夢の跡
忘れたい、忘れたくない
だって、こんなにも私は泣いている
あなたを想って震えている
愛憎に、あるいは悲憤に
あなたに刃を突き立てた運命とやらに
帰りたい、私たちの小さな城へ
下らない小競り合いと和解を重ねる筈だった
どんな馬鹿でも、惨めだろうと、あなたとならやれた
大きなその手に誘われ、導かれたなら
私、きっとやれたのに
転がる荊は少女のままで、棘を振り撒き嘆いている
もう眠りたい、けれど歩かなきゃ
私はまだ流さなければならない
誰の為に、ねえ、どこにいるの
もう顔も声も分からないあなた
なんて無様な末路
私を縛り付けて置いていった
愚か者、大馬鹿者
あなたのせいだから、ずっとずっと許さない
誰も私を信じないで
振り向かないで、愛さないで
光が落ちて土を被って、消えてしまったあの日から
私はもう太陽など見ていない
見上げる空は灰色のまま
陽射しを妨げる、濡れた手で
(木漏れ日)
出会わなければ疑わずにいられた
出会えたから瞼を開いた
あなたさえいなければとうに旅立てていたのに
縋る声を振り解く力など残されておらず
火傷しそうな羽に抱かれて安堵する心
外なる腕の笑い声が聞こえて、沈む
沈みゆく
約束を捨てて、郷里の断崖へ
枯れた手首を捉える枷如き、愛したくなかった
何も引き摺らず、潔く、溺れてしまいたかった
罪を謀る甘い誘い
運命を裏切る背徳の明日
まだ叫ぶ魂の色
あなたのことなんて大嫌い
初めから、ずっとずっと、そう変わることなく
あなたのことを忌避してきた
私は祝福なんて望んでいない
私は救いなんて願っていない
許されざる者は天によって裁かれる
私も罰を受けないと、私も傷を受けないと
黄昏を呑む月の美しい夜に
どうかヒバリが鳴く前に
なのに、あなたが突き落とすから
どうしようもなく優しい瞳で、毒を孕んだ言葉で
私を浸して、侵して、あなたのもとへ繋ぎ止めるから
仕方なく吠え立てたんだ
生きたい、生きたい、血を吐くほどに
それなのに、黎明の海岸で私は独り
砂に塗れて立ち尽くしている
戯れに足首を撫でる波が煩わしくて
あなたが口遊んでいた、下手くそな歌を真似してみる
さあ、正しに来て
溜め息混じりの説教でも構わない
王子様なら迎えに来てよ
虚しい歌が潮風に乗って、誰にも届かず消えていく
フィクションを嫌うあなたらしくないね
(手紙を開くと)