贈り物の中身には、冷凍された鮭の切り身がぎっしり詰まっていた。まだ冷蔵庫には処分待ちの食材がいくつも残っている。常にお腹が痛いボクにとって食べるものはすごく大事。だから納得のいくもの以外、欲しくないし見たくもない。ボクの買い物の自由を奪わないでよ。全部処分して綺麗にしてからでないと買い物が出来ないんだ。あと何回食べれるのか分からないのに適当なものは食べたくない。
題『贈り物の中身』
銀のネックレスのような凍てつく星空が首筋を冷やす。部屋で一向に進まない時計の秒針を眺める。今日はまだ始まってすらいないが考えるのも億劫で精神は凍てついていた。おせちと一緒に冷凍保存してほしい
題『凍てつく星空』
君と紡ぐ物語は、まるで"小説の書き方"を見ながら書いたような、異世界転生くらい食傷気味な物語。
本棚に並ぶのは小説家の書く小説のような本ばかり。
中身は違うけど骨子は一緒。物語は平和を求めない。何事もなく幸せな人生を送りました、なんて登場人物はモブ以下だ。
それなのにこの世界は、運の良さを努力と勘違いして訊ねる。
「今まで何してきたの?」
数年単位で何も出来ないような病気や怪我、精神的な病を"運よく避けれる環境にいた"ことに無自覚な発言。ガチャガチャでハズレを引かなかっただけ。
社内のフィギュアケースにはドッペルゲンガーみたいに同一人物がズラリと並んでいて、"貴方じゃなくても代わりはいくらでもいる"と、動かない瞳が一斉に呟く。
テレビや映画ではドラマチックな人物を称賛するくせに、その過程にあるかもしれない人はチェスの駒みたいに盤上から落とす。
物語は紡げる距離まで寄り添わなければ成立しない。
題『君と紡ぐ物語』
失われた響きはピコーンという電子音。中学時代の思い出のゲーム筐体は、バッテリーを直せば使える程度の劣化ではなかった。パールホワイトだった本体は黄ばんでおり、開こうとすると表面がベタつく。なんとか開くが中身も黄ばんでおり画面にはアメーバのような模様が電源を入れていないのに浮かんでいた。これはもうダメだ。悲しいけれど思い出にも寿命があるんだね。今までありがとう。
題『失われた響き』
霜降る朝、レインコートに繋げた熊よけの鈴が鳴り響く。
"クマさんはどこにいるの?ボクはここだよ"
藪の中や空き家の方をキョロキョロ見渡す。伐採された柿の木が横たわっていた。
"勿体無いなー。どうせなら熊さんに柿をお腹いっぱい食べてもらえばいいのに"
昨日はなかった電気柵が設置されていた。
"絵本の熊さんはいつもニコニコしててふわふわの毛皮で抱きしめてくれるのに。どうして仲良くできないの?"
熊さんに会えないかなと淡い好奇心で探索する。
題『霜降る朝』