そんな感情もあったね。完全に銀シールで覆われていて存在自体を忘れていた。
寂しくはないよ。ただ苦しいだけ。
昨日は、ずっと食べたかったあんぽ柿で具合が悪くなってガッカリしていた。頭のフラつきとお腹の苦しみが精神を支配していた。耐えきれずに飲み物を飲んだりキャラメルを舐めたりして気を紛らわそうとして一層苦しくなる。何時間も読書をして苦痛を追い出そうとする。"誰か助けて。この苦しみを終わらせて"
寂しくはないよ。ただ苦しみからの解放を求めて縋るように手を伸ばす。
気持ちがプツンと切れてしまった。がしゃんと身体が崩れ落ち表情からは生きる気力が抜け落ちていた。
題『寂しくて』
目に見える失敗よりも潜在的な顧客を逃す方が圧倒的に罪深い。
秋冬はアパレルショップで服を見るのが楽しい。大きな鏡に映る姿は「そういえば自分はこんな見た目だったな」と再確認させてくれる。妄想先行で茨道を歩く隣には何の障害もない舗装された道が用意されていることを思い出させてくれる。でもそんな気分は長続きしない。
「贈り物ですか?」
アパレルショップの店員が話しかけてくる。
なーに?せっかく楽しく服を見てたのにボクが着るとは思わなかったの?「ただ見てるだけです」笑顔で返す。心の境界線を超えてきた。
ちょっとグサっときたなー。せっかく可愛い服があったのに、そんな風に言われたら自由にコーディネートを楽しめないじゃん。あーあ、そこの大きな姿見に持っていって合わせてみたかったな。
絶対にこの店には投資しない。トラウマがついた服は可愛くない。
題『心の境界線』
透明な羽根は保温性が高い。そのため、暖かさを確保するためにボトムスにタックインしたりする。またビックリすると広がってしまうためベルトで固定することもある。公共の温泉には行きづらかった。入浴中に抜け落ちた羽根を踏むと滑って危険だからだ。しかしデメリットばかりではない。素材としての価値はあるため小遣い稼ぎ程度にはなる。透明なため子供にいきなり毟られることもない。マイノリティな種族であることには変わらないため社会制度や対応しきれていない設備も多い。それでも何とか折り合いをつけて生きている。
題『透明な羽根』
家主のいなくなって久しい邸宅の書斎の隅に、背もたれの破けた、燻んだ朱色のロココ長の椅子が主人の代わりに埃を座らせていた。かつては賑やかな食卓に温かみを与えていたシェードランプは数年前にチカチカと火花を散らして以来、魂が抜け落ちたように音沙汰がなくなった。そこに一人の人物が月夜に紛れるように現れた。華奢な身体を際立たせるスーツのような艶のあるモノトーンの服装、男装の麗人のように見えるが黒いベレー帽を目深く被っており確信はない。手にはヴァイオリンを持っており、部屋の隅へまっすぐに向かうと埃を払うこともなく座って弾き始めた。すると湿っていた暖炉の薪に灯火が灯り、かつての家主や使用人達が青白いシルエットでワルツを踊り出した。反刻ほどの演奏が終わると来た時と同じように闇の中へと消えていった。その数日後、邸宅は取り壊されることとなり、家財は軒並み処分された。私は運良く気に入られて処分されず、今は別の家でアンティークとして置かれている。いつかまた灯火を囲む日が来るだろうか。
題『灯火を囲んで』
冬って可愛くするのが難しい。「防寒対策に着てるんだな」って思われないようにしたいのに田舎の冬は寒すぎる。3枚重ね着してもまだ寒い。ストールやニット帽を合わせても寒い。かと言って上下がどちらもモコモコだと締まりがなくて可愛くない。ここまでくると冬のオシャレは根性で乗り切るしかない。可愛さへの欲求は寒さに負けないくらい強いのだ。ただ、色のアクセントとして小物にお金がかかるため懐はどうしても寒くなる。髪色も垢抜けた感じにしたいな。お金がどんどん飛んでいくよ。冬って好きだけど嫌い。
題『冬支度』