誰もが自身の絶対的な理想を生きられる夢の世界。
そんな世界で、彼の夢はとても優しい物語を紡いでいた。
彼が大切な人達と不自由なく幸せに暮らす夢。
誰にも負けない力を持つことでも世界一のお金持ちになることでもなく、不変の日常が彼の望む理想らしい。
彼の理想の日常には自分も居て、環境が変わっても彼と離れることなく日々を過ごしているようだ。
彼の描く理想の夢に自分の存在があること、そして大切な存在として傍に置いてくれていることが何よりも嬉しかった。
この夢は醒めないでほしいと、この夢に浸っていたいと願ってしまった。
自分の理想を叶えた夢の世界よりも、誰かの理想の中に存在できる世界の方がよっぽど魅力的な楽園に思ったのだ。
実現不可能な理想だから、夢に見る。そして夢はいつか醒めるものである。
現実は決して楽園などではなく、絶対の不変など不可能だ。
自分達の環境が変わった時、果たして自分達は彼の理想通りに変わらぬ関係で居られるのだろうか。
【お題:楽園】
初めて魔法を目の前にした時、まるで自由そのものを操っているかのような煌めきに感動を覚えた。
次に、魔法が使えない自分にとてつもない不自由さを感じた。
今、箒に乗り優雅に空をかける魔法使い達を地上から見上げている。
楽しげな声が上から一方的に降ってきて、下にいる自分の声は届かない。
自分の言葉を風に乗せて遠くまで届けるような、そんな些細な魔法でいいから自分も使えれば良いのに。
そうすれば風と戯れている魔法使い達に、彼に、少しでも近づけるのに。
ふと、彼と目が合ったかと思うとふわりと自分の前に降り立ってくる。
「なぁに羨ましそうな顔してんの?一緒に乗りたいんでしょ、後ろ乗せてやるから掴まれよ」
「……なんでわかったの。声、聞こえてないでしょ。」
「いや、あんな寂しそうなオーラダダ漏れで気づかないわけなくね?」
声は届けられずとも、視線かあるいは思いなんかは風に乗せて届けることができたらしい。
彼の肩越しに風をきって下界を見下ろす。彼はこんな景色を普段見ているのか。
彼が手を引いてくれるおかげで、同じ視点で魔法の世界を見れると思うと、魔法が使えないのも案外悪くないかもしれない。
【お題:風に乗って】
もう帰らなきゃいけないことも、このままここには居られないことも分かっているのに、彼の笑顔に足が縫い止められる。
「ずっとここにいればいいじゃん」なんて言うから、家で待ってる家族のことを忘れたフリをして彼の手を取ってしまう。
今、目の前の彼と過ごす幸せなひと時が何より大切で、これからの事など今この瞬間に比べれば些細なことなのだ。
今はただ、そう思い込んでいたい。
【お題:刹那】