私は知り合いに目が見えない人がいた。
お母さんはよく知っていて私は会ったのは何度かだけだった。
その人が入院したと聞いて
子供の私はあの人元気かなってついていった。
でも私は手が震えた。
どこか天井を見ていた。目の焦点があっていなくてそしてなにより会話もできていなかった。
「もう耳も聞こえないんだって」
お母さんは泣いていたけど笑っていて、他の人も笑顔だった。
耳も聞こえなくなってあんなに耳の良かった人が聞こえないなんて信じられなかった。
目が見えないのにピアノも弾けて勉強もできて生活もできて、本当に私ならできないと思った。だから凄い人なんだと思った。
痩せ細って、意識があるのかも分からなくて。
耳も目も聞こえないと人間が弱っちゃうって聞いた。
涙が震えた顔からでそうで、
これは初めて死があることを私に伝えた。
最後かもしれない。
でもあの人にとって私なんて覚えていないだろう。
「手を握ってあげて」
そう言われてただ握った。手は震えていたけどちゃんと握った。手は冷たくて震えていいたけど反応はあった。
なんと表したらいいのか。なんと言えばいいのか。
「私って馬鹿だな」
生きているとは本当に素晴らしいことだと思った。
私より何倍も何百倍も優しい人が若くしてなくなってしまう。
凄く悔しくて、怖かった。
死なないでと願うことしかできなかった。
でもその歳でなくなった。
生きていて声が聞けるのは素晴らしいことだとそう思ったのに、私はあの時の母の震えた声でさえ忘れていた。あの人の事も。
都合がいい事だけ覚えているのは確かに生きやすい。そうだよ。生きやすいんだよ。生きやすくてそれがとてつもなく嫌だ。
ずっと覚えていたくても覚えておけない。
もう一度だけなんてない。
声が聞きたい。声を聞かせて。声を聞かせろ。
そんな馬鹿みたいな訴えしか出来なくなる前に
沢山伝えて沢山話して沢山生きて。
沢山沢山声を聞かせてくれる人が私には必要なんだ。
僕の恋人は男だ。そして僕も男だ。
初めて2人で旅行に行った日の事だった。
「どうして僕の告白を受けてくれたの?」
「あははっそれは君がホモだから?」
香水を纏って甘い香り漂う男だった。
「だって今までの恋人は全員女だった」
「...もしさ、僕らのどちらかが女で男でも君を愛していたよ」
「ただ君という存在を愛しているんだ。例え女でも、顔が今と全く違う感じでもさ、愛してる。ただそれだけで十分だと僕は感じるんだ。みんなみんな何かと枠にハマりたがるけど、元々愛なんて曖昧なものに枠なんて僕は感じないよ?んーなんだろう。説明はしにくいんだけど君もたまたま愛した人が男だっただけなんじゃないかな。だからこの先別れても君は1人の元恋人に過ぎない。」
「そういうものなのかな」
プレゼントでくれた香水はレモンの香りがした。
「この匂いを選んだのは、僕らの恋の証。香水って凄く恋と似てるんだ。同じ恋なんてひとつもない。ただ形のないものに名前をつけただけの似たものどうしの感情。匂いも同じものなんてひとつも無いけど同じレモンの匂いって書かれてる。恋も匂いも、信じた証が結婚したりいい匂いになれる。」
今はもう女の人と結婚して子供もいる。彼女の香水はシャンプーの香りがする。
私は妻を愛しているし、もう男は好きじゃない。いや違った、もう元恋人達は好きじゃない。
未だにあの香水を嗅ぐとあの頃に戻った感覚になる。
「なぁいつか結婚したいな」
「僕達の気持ちは僕達にしか分からないよ。似てる気持ちをもっている人はいても同じ気持ちを持っている人なんて1人もいないんだから。理解じゃなくて学んでくれるといいな」
いまだに覚えているあの匂い。愛の匂いもきっとそれぞれ違うのだろう。
雨に佇む
雨は嫌い、じゃない。何でもかんでも周りに合わせないといけないなぁとこの頃思う。初対面だったら何が嫌いなどというものは話題にしてはいけない。だされたものも嫌いであっても食べなくてはいけない。
凄く辛い時に傘をささなければどうなるだろうと雨に濡れた。冷たくてでもなんだか静かな気持ちになれた。
周りから見れば風邪をひいてしまうや、なにやってんだと思われる行動
でも実際は大した事なかった。風邪はひかなかった。
昔は好き嫌いが多いのが子供と言われたけれど、それは個性があったと思うのは私の間違いだろうか。
多分これも批判ばかりうける。周りにあわせられないのはバカのする事だとよく見かける。大人って子供の時と比べて自分が他人と似ているということをあまり自覚していない。よく何に当てはまる性格診断などというものがあるが、1億もいる中でその枠にハマっているという時点で自分は個性がない。
というように悪い言葉を吐けば私は批判ばかりうける。批判をうけていい対象だと勝手に認識される。
どうして否定的なことからはいる人が多いんだろう。
雨に濡れながらそう考えた。そこにいる間考えてみたけどやっぱりわかんない。例えば大勢の人が通る道でぽつんと立ったらきっと責められるのは私だろう。
迷惑をかける存在はいらない。
でももっと違う視点から見ればそこにいる人をも避ければいい
こんなことなんでしなくちゃいけないんだって思うけど私達にはそれができる。ちょっと左右に動くだけでいい。
これだと迷惑をかけたことになるのだろうか。
雨は何も気にせず降ってくる。けれどなくてはならない存在だ。立ち止まって考える。
どんな人も存在していい世界なんて一生実現出来ないことは分かった気がした。
雨はどこかで降っていてこの水は私達より生きているのかもしれない。
迷惑なんて言われる筋合いなんてない。
雨よはやくきてくれ、そして似たもの同士の人間が否定的な考えをするのを止めてくれ
と勝手に雨に願った。
次の日は晴れだった。やっぱり必要な人間だけが必要とされる世界が今日もきた。
いつも体操服を着ているクラスメイト。彼の家はお金があまりなかったそうだ。
いつも楽しそうにしていてみんなから愛されていた。
何より名前が常に胸に書かれていたので分かりやすかった。これにより名前のど忘れを防いでくれる事は私も感謝している。体操服を着ていた彼は間違われる事もなく提出物も落とし物も届く。
名前より体操服が先にでてくる彼は面白い存在。
という長所は全部彼から聞いた事だ。
つまりはどんなことにも長所があると改めて思った。
久しぶりに成人式で見かけた彼はスーツ姿だったが、やはり思い出すのは体操服の彼だった。
結局はやはり人間外より中身というが、卵を割って初めて二つの黄身が入っていたことが分かるように喋ったり関わったりして色んなことがわかる。
体操服の彼は長所を話すなり短所もいろいろな事を話してくれたがそれは一切覚えていない。なので衝撃を受けたことは忘れないもんだと思う。
裏返しという言葉は私にとって体操服である。焦げたパンケーキも裏返せば白いという事もある。どんなところにも長所があり、短所がある事は意外とみんな知っている。
というのはどうでもいい話で、面白くもなかった話かもしれないが365日体操服を着ていた彼の卒業式の日。ブレザーを反対に着ていた事は今でも忘れない。
というどうでもいい片隅の話であった。
さよならってもう会えないような気がするけれど、実際はどうなのだろう。
別れる時もあなたにさよならを言う私はもう会わないと気がついたから言ったのか、はたまたここで言えばちゃんとお別れできるから言ったのか。
死ぬ前に何か言う事があったかな、とか思うよりいい人生だったと走馬灯が駆け巡り最後にさよならを言いたい。
でも本当はさよならならなんて言いたくないと駄々を捏ねたいと思ってて欲しい。
だから。願わくば格好がつくくらいの人生にしたいなんて思ってる。
死ぬ時は笑ってて欲しい。でも実際は死にたくないって思っててほしい。でも格好はつけて死にたい。
矛盾だけど矛盾じゃない。
さよならは別れの挨拶であるけれど、きっと出会った証で印でもあるんだなと思う。
さよならを言う前にさよならを言えた相手がいたのなら、それはきっと
ありがとうという印のさよならだから。
馬鹿な私を看取ってくれたのはきっとさよならなんかかき消すくらい言葉を交わした相手で、
さよならを言う前に最後にあなたと一緒にいれて幸せだと感じることのできる相手だったら
どんなにかっこいい人生だろう。