9/27「通り雨」
急に降ってきた。雨宿りのできる場所を探す。裏通りにひさしのある店はなく、表通りに出ようかと思うと、
「あら」
丁度ドアを開けた女性がいた。
「よかったらお茶をいかがですか?」
小さなドアの奥は喫茶店のようだ。せっかくだから入らせてもらうことにした。
淹れてもらった紅茶を味わいながら店内を見回す。落ち着いた雰囲気の店だ。
「みなさんおっしゃるんですよ、ここは別の時間が流れてるみたいだ、って」
確かに時を忘れそうだ。女性としばし話をし、礼を述べて会計をする。
外に出ると、雨は上がっていた。そして―――
見たことのない建物の群れ、見たことのない街並みが広がっていた。
ここは、どこだ? いや、「いつだ」と言うべきか?
振り返るとそこにドアはなく、長い通りがあるだけだった。
(所要時間:8分)
9/26「秋🍁」
A「僕がいなくなっても、忘れないでいてくれるかな」
B「無理」
A「……無理かぁ〜」
B「人間、目の前にないものはさっくり忘れるからね。まあ、そういう事言ってる私がいなくなるのも時間の問題だけど」
C「おっ、何の話だよ?」
A「あー。一番存在感あるのが来たよ」
D「わたしもいる…と言いたいけど…今年はそうでもないかも…」
B「あれだけ邪険にされてるのにね、憎まれっ子世に憚るってやつね」
C「そう言うなよ、俺だって好きで長くなってるわけじゃねえんだし」
D「好かれたり嫌われたり…全部人間側の都合…」
ニュース『今年は厳しい残暑が続き、秋の訪れはまだ先になりそうです』
(所要時間:13分)
9/25「窓から見える景色」
僕らは旅立つ。希望に燃えて、とは行かないが、次の場所を探しに行く。
僕たちを運ぶのは最後の便だ。あとに残るのは留まりたいと望んだ者だけ。
窓の外には昼も夜もない。星々が無限に広がっている。反対側の窓からは、200年も前ならばまるで違う景色が見えたのだろう。
僕たちは進む。進むしかない。窓に浮かぶ枯れた惑星―――地球を残して。
(所要時間:9分)
9/24「形の無いもの」
宝を探しに来た。
その途中に、老婆が倒れていた。
老婆は泉のある場所まで送ってくれという。丁度、宝の地図の指し示す場所だ。見捨ててもおけないし、同じ方向だ。時間はかかるが、送って行くことにした。
泉に到着すると、老婆は美しい女神に変身した。
「あなたの優しさは、何よりの宝です。これからも大切になさい」
そう言って女神は消えて行った。
で、地図にあった宝は? 優しさ? それって元々持ち合わせていたわけじゃ?
いやいやいや、それとこれとは話が別だ、バカヤロー!
(所要時間:8分)
9/23「ジャングルジム」
キャッキャッと声を上げて、子どもたちが遊んでいる。滑り台、ブランコ、その次はジャングルジム。
小さい時によく遊んだな。そう思いながら、ベンチから眺める。
会社をやめて、何か色々と吹っ切れたあたしは、「よーし、お姉さんも一緒に遊んじゃおうかな!」ぐらいの気持ちもあったけれど、子どもたちに怪訝な顔をされるのは目に見えているからしない。
ジャングルジムで遊ぶのは子供の特権なんだな、と思う。大人になってできることは増えるけど、そういう特権を失っていくことでもあるんだ。
とりあえず、あたしたちは前に進むしかない。明日から就職活動頑張ろっと。
(所要時間:8分)