「花畑」
1つ、種をまく。
2日後、また1つ、種をまく。
私はロボット。主人の遺言―――最期のプログラムで、種を植えている。
主人はこのコロニーの人口管理をしていた。様々な要因で疲れ切った主人は、人が亡くなるたびにこの畑に種を植えるよう、私に言い遺して命を終えた。
時が経ち、もはやあらゆるシステムが機能しなくなったこのコロニーで、私は毎日の数字を確認し、それに従って種をまく。
今、この区画の畑の半分ほどが種で埋まり、そのさらに半分ほどが花を咲かせ、さらに半分ほどが枯れている。
無作為に増えては減る人口。死を刻み続ける種。
私が役目を終える時が来るのかどうかは、わからない。
(所要時間:9分)
9/16「空が泣く」
血とともに体温が体から流れ去っていく。頭が冷たくなってきた。小竜の首を撫でながら、苦しい息を絞り出す。
「ごめん、ね。私は、もう…」
キュウン、と小竜が鳴く。
「でも、どうか…。人間を、恨まないで」
私たちを追う複数の声が飛交っている。岩陰から見える空はどんよりと曇り、自分が最期に見るにふさわしい空に思えた。
「…元気で、ね」
目を閉じる。手が落ちる。最期に感じたものは、頬にぽたりと落ちた雫だった。
(所要時間:7分)
9/15「君からのLINE」
ピコン、とスマートフォンが鳴った。久しぶりに娘からだ。何の用だろう。開いてみる。
『ののとのらほはや』
謎の呪文が送信されていた。暗号だろうかと首をひねる。しばらくして、その謎は解けた。
『ごめん、ツクルが勝手にスマホいじっちゃって』
「ツクルが送ったのか」
『そう。ごめんね、びっくりしたでしょ。もうスマホで動画とか普通に観るんだよ』
3歳になる孫からの、初めてのLINE。無理に噛み殺そうとしても笑みが漏れ、妻に気づかれた。さあ、どう自慢してやろうか。
(所要時間:6分)
9/14 「命が燃え尽きるまで」
窯の中に爆ぜる炎。ハンマーが金属を打つ音。
名のある戦士のために、一品物の、一級品の武器を作る。それがアタシの仕事だ。
作業場に満ちた熱気に、汗がだらだらと流れ落ちる。ひと打ちごとに、アタシの魂が鉄の塊に伝わっていく。
アイツらが命をかけて敵と戦うように、アタシにはアタシの戦いがある。
最高の武器を作り続ける。命が燃え尽きるまで。
(所要時間:6分)
9/13「夜明け前」
闇が終わりを告げ、薄青が支配する特別な時間。
お母様の言いつけどおり、私は帰る。静まり返った森を抜けて、町から少し離れた館へ。
ここは誰も来ない。町の住人には恐れられている。時折、命知らずの冒険者がやって来るだけ。
カーテンを閉めて地下に降り、彼らのための罠のスイッチを入れて、私はお母様の棺を開け、隣に横たわる。
「お帰りなさい。また入って来るの、甘えっ子ね」
そう言いながらお母様は私を抱き寄せる。
「今日は4歳の子どもを吸ったの」
「そう。美味しかった?」
「とっても!」
もうじき夜が明ける。どんなに甘い血の味がしたかをお母様に報告して、私は次の夜まで眠りに就く。
(所要時間:8分)