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9/18/2023, 12:59:01 AM

「花畑」

 1つ、種をまく。
 2日後、また1つ、種をまく。
 私はロボット。主人の遺言―――最期のプログラムで、種を植えている。
 主人はこのコロニーの人口管理をしていた。様々な要因で疲れ切った主人は、人が亡くなるたびにこの畑に種を植えるよう、私に言い遺して命を終えた。
 時が経ち、もはやあらゆるシステムが機能しなくなったこのコロニーで、私は毎日の数字を確認し、それに従って種をまく。
 今、この区画の畑の半分ほどが種で埋まり、そのさらに半分ほどが花を咲かせ、さらに半分ほどが枯れている。
 無作為に増えては減る人口。死を刻み続ける種。
 私が役目を終える時が来るのかどうかは、わからない。

(所要時間:9分)

9/17/2023, 1:25:19 AM

9/16「空が泣く」

 血とともに体温が体から流れ去っていく。頭が冷たくなってきた。小竜の首を撫でながら、苦しい息を絞り出す。
「ごめん、ね。私は、もう…」
 キュウン、と小竜が鳴く。
「でも、どうか…。人間を、恨まないで」
 私たちを追う複数の声が飛交っている。岩陰から見える空はどんよりと曇り、自分が最期に見るにふさわしい空に思えた。
「…元気で、ね」
 目を閉じる。手が落ちる。最期に感じたものは、頬にぽたりと落ちた雫だった。

(所要時間:7分)

9/15/2023, 2:00:48 PM

9/15「君からのLINE」

 ピコン、とスマートフォンが鳴った。久しぶりに娘からだ。何の用だろう。開いてみる。
『ののとのらほはや』
 謎の呪文が送信されていた。暗号だろうかと首をひねる。しばらくして、その謎は解けた。
『ごめん、ツクルが勝手にスマホいじっちゃって』
「ツクルが送ったのか」
『そう。ごめんね、びっくりしたでしょ。もうスマホで動画とか普通に観るんだよ』
 3歳になる孫からの、初めてのLINE。無理に噛み殺そうとしても笑みが漏れ、妻に気づかれた。さあ、どう自慢してやろうか。

(所要時間:6分)

9/14/2023, 11:58:29 PM

9/14 「命が燃え尽きるまで」

 窯の中に爆ぜる炎。ハンマーが金属を打つ音。
 名のある戦士のために、一品物の、一級品の武器を作る。それがアタシの仕事だ。
 作業場に満ちた熱気に、汗がだらだらと流れ落ちる。ひと打ちごとに、アタシの魂が鉄の塊に伝わっていく。
 アイツらが命をかけて敵と戦うように、アタシにはアタシの戦いがある。
 最高の武器を作り続ける。命が燃え尽きるまで。

(所要時間:6分)

9/13/2023, 11:33:27 AM

9/13「夜明け前」

 闇が終わりを告げ、薄青が支配する特別な時間。
 お母様の言いつけどおり、私は帰る。静まり返った森を抜けて、町から少し離れた館へ。
 ここは誰も来ない。町の住人には恐れられている。時折、命知らずの冒険者がやって来るだけ。
 カーテンを閉めて地下に降り、彼らのための罠のスイッチを入れて、私はお母様の棺を開け、隣に横たわる。
「お帰りなさい。また入って来るの、甘えっ子ね」
 そう言いながらお母様は私を抱き寄せる。
「今日は4歳の子どもを吸ったの」
「そう。美味しかった?」
「とっても!」
 もうじき夜が明ける。どんなに甘い血の味がしたかをお母様に報告して、私は次の夜まで眠りに就く。

(所要時間:8分)

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