9/12「本気の恋」
「あ〜あ。してみたいなぁ、本気の恋」
一通り昨日のドラマの感想を言って、ミカが宙に向かってつぶやいた。
「え、今までの本気じゃないんだ?」
「だって結局ダメだったじゃん」
本気かどうかと上手くいくかどうかはまた別のような気はしたけど、まあそこは黙っておく。
「でさぁ、三組の三菱くんがいいなって最近思っててさぁ」
「はぁ…」
翌日、さっぱりした顔でミカが報告に来た。
「ダメだった! 次こそ本気の恋する!」
やっぱりちょっと違う気はしたけど、まあやっぱりそこは黙っておくことにした。
それはさておき、ホッとしてる私がいる。三菱くんにはずっとずっと前から恋してるから。
(所要時間:8分)
9/11「カレンダー」
一枚めくる。今日のことわざは「転ばぬ先の杖」。
「遅いんだよなぁ…」
昨日擦りむいた膝をさすりながらつぶやく。
買ったばかりのことわざ日めくりだが、いつもことわざのタイミングが悪い。どうも自分に合わないのかも知れない。
もう午後だ、明日の分をめくってもいいだろう。運命は自分で切り開くものだ。いやちょっと矛盾してるか。
一枚めくる。明日のことわざは「急いては事を仕損じる」。
「…遅いんだよなぁ…」
急いてめくった事を少し後悔する。
(所要時間:7分)
「喪失感」
剣を取り落とした。足の力が抜けて崩れ落ちるように膝をつくと、鎧の音がガシャリと鳴る。前にも後ろにも倒れることのできぬまま、俺は呆然とその首輪を視界に入れていた。
信じられなかった。―――あいつが、死んでいたなんて。
本来、決して外すことのできない首輪だ。魔法文明時代の名残だという。文明をまたぐ長きを生きたあいつが、まさかこんな所で。
「さて、どうするかね?」
大魔導士は俺の反応を愉しんでいる。俺はあまりのショックに怒りすら湧かなかった。戦う気力も忘れ果てた。
―――檄を飛ばす仲間の声が届くまで。
(所要時間:10分)
9/9「世界に一つだけ」
ねえ。君が今、捨てようとしてるもの。
世界に一つだけだってこと、知ってる?
知ってるよね。でも、わかってないよね。
ねえ。世界に一つって、どういうことだかわかる?
とても貴重だよね。他にないんだもの。
そして、世界に一つなんだから、それ自身がどうあったっていい。
どんな形であれ、それは世界に一つなんだから。
僕もかつて捨てたんだ。君が今捨てようとしたもの。君と同じものだけど、世界に一つだけしかないもの。
後悔してるかって? うーん、どうだろう。
ただ、もったいないことしたなぁとは思うよ。もっと大事にしても悪くなかったなぁって。
だから、人には言いたくなるんだよね。
命は大事にしなよ、って。
(所要時間:6分)
9/8「胸の鼓動」
あなたと握り合わせた指の先。
あなたと合わせた額と鼻先。
目を閉じれば、鼓動が聴こえる。
体じゅうを巡る血液を、小さな臓器が懸命に繰り出している音。
あなたとわたしが生きている音。
この音のある限り、わたしはあなたとともに生きる。
さあ、抱きしめて。その鼓動を、私の心臓に直に聴かせて。
あなたとともにある幸せを、私に思い知らさせて。
この胸の鼓動が止まるその日を超えても。
(所要時間:7分)