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9/7/2023, 11:22:58 PM

9/7「踊るように」

 雪が舞う。風に乗って上へ下へ。時に撫でるように、時に叩きつけるように。
 その雪の中を、妖精が舞う。白いレースの服をまとい、ステップを踏んでふわりふわり。
 冬を楽しみ、春を呼ぶ舞。妖精の朗らかな笑い声が鳴り響く。
 ひとしきり楽しむと、雪は、妖精は、踊るように消える。
 妖精はいずれまた現れて踊る。花の妖精が目を覚ますまで。

(所要時間:9分)

9/6/2023, 10:20:23 AM

9/6「時を告げる」

 鐘の音が鳴り響く。夜が動き出す。
 始まるは不死者たちの宴。人々は恐れ、家に引き篭もり扉を閉ざす。

 そして、私は目を覚ます。狩りの時間だ。
 並み居る不死者たちをなぎ倒し、叩き潰す。腐り果てた黒い体液は私をより黒く染め上げる。
 闇に紛れて闇を狩る。それが私の定め。私に刻まれた呪い。

 鐘の音が鳴り響く。朝が静けさを取り戻す。
 そして、私は眠りに就く。

 私の存在は、誰も知らない。

(所要時間:8分)

9/5/2023, 11:32:03 AM

9/5「貝殻」

 さくら貝の貝殻を白い砂浜に見つけて、君を思い出した。
 色白の肌にピンク色の小さな唇。可愛らしくて羨ましかった。
 君は今、元気ですか。
 新しい人は見つかりましたか。
 もし見つからなかったら、私のところに戻って来る気はありませんか。
 どんなに見つめても、さくら貝は返事をしない。
 貝のように黙って―――いや、黙っているから貝なのだった。
 君の少しおしゃべりな唇を思う。

(所要時間:8分)

9/4/2023, 12:09:50 PM

9/4「きらめき」

 あいつは星になった。
 殴ったら飛んでったとかいうマンガ的表現の話じゃない。あいつが偉業を成し遂げたから、神様が星として召し上げたんだ。ほら、今も西の空に見えるあの青い星がそうだ。
 この頃、星になる人間が急速に増えている。神様が猛スピードで人間を表彰してるみたいだ。
 死んだ人間も、生きてる人間も、昼夜問わず星になる。夜は10年前に比べて随分明るくなったらしい。
 この星の人間がみな星になったら、後には何が残るんだろう。
 もしかしたらこれは、神様による人間の美しい粛清なのかも知れない。そんな事を思いながら、俺は今夜もあいつの星がきらめいているのを眺めている。

(所要時間:10分)

9/3/2023, 11:21:35 AM

9/3「些細なことでも」

 初めての入院とのことで、その70代女性には説明を丁寧に行った。
「以上です。何かあれば、月曜日の診察の際、些細なことでも遠慮なくおっしゃってください」
「わかりました、先生」
 穏やかな笑みに、こちらが癒される思いだった。
 そして月曜日。
「調子はいかがですか?」
「はい。中庭の隅に、ツユクサの花が咲いていましてね」
「ツユクサ?」
「ええ。紫の花がね、美しかったので、スマホで撮ってきました。先生もご覧になりますか?」
 なるほど、些細なことだ。だがその些細なことに目を留める感受性こそが、今のお年までご健勝であった理由かもしれないと思った。

(所要時間:8分)

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