9/2「心の灯火」
灯籠に明かりが灯され、そっと水面に置かれる。
川面に満ちた灯(ひ)はひしめき合って揺れ、少しずつ、少しずつ、流れていく。その光景は戦時の配給にできた長い列を思い起こさせた。
灯籠流し。昔に比べて随分と美しく色とりどりになったものだ。今年も誰かが、いや、大勢が、こうして誰かのために祈ってくれる。
心に、小さな明かりが灯る。
(所要時間:9分)
9/1「開けないLINE」
「知ってる? いつの間にかお友達になってるLINEの話」
「え、よくあるけど」
「待って。許可制にしときなよ、セキュリティ大丈夫? まあともかく、「243(フジミ)」っていう人が勝手にお友達になってて、そのLINEを開くと…」
「不死身になるの?」
「いやそんなハッピーエンドある?! いやハッピーとは限らないけど!」
「じゃあ呪われるとか?」
「らしいんだよね。でさ、あたしの所にそれが来てて…」
「えっ怖」
「怖いよね?!」
「でも要は開かなきゃいいじゃん?」
「いやいやいやいや、気持ち悪いし間違って開いたら超怖いし!!」
「てか、呪われるってどんな呪い?」
「さあ…詳しくは知らないけど」
「わかった、じゃあアタシが消しとくよ。ハイ、ぴっぴっぴ、と」
「えっ何のためらいもなく行った」
「これで大丈夫でしょ?」
「あ…ありが…」
ピコーン
「また来てるーーーー!!」
「え、そのフジミさんの諦め悪さが呪い…?」
(所要時間:11分)
8/31 「不完全な僕」
大魔王、と呼ばれる者がいた。
積極的に都に攻め入ることはなかったが、数百年を生き、人をさらっては儀式に使い、己の研究に没頭しているという。討伐に向かって生きて帰った者はいなかった。
今日もまた、勇者と呼ばれる者たちが大魔王のもとに辿り着いた。
「わしは完全な存在になる」
大魔王はそう言った。
「そのための犠牲になってもらうぞ」
激しい戦いの末、やはり勇者たちは敗れ去った。大魔王は血にまみれた両手を掲げる。
「わしは完全な存在になる。―――かつてのように、もう一度だけ…」
大魔王は苦しげに、はるか昔に亡くした伴侶を想ってつぶやいた。
「婆さんや…」
(所要時間:9分)
8/30 お題「香水」
今日の俺のデスクには残業書類が山。そんな陰鬱な気持ちは吹き飛ばしちまうのさ。
眉毛の先をピンと伸ばして、アイラインを太めに引いて、最後に香水をシュッと噴けば、夜の街はわたしのもの。
都会のネオンを浴びて肩で風を切る、それがわたしの夜の生き方。
「影山さん、香水つけるんですか?」
「え、何で?」
「こないだデスクにあったから…。彼女さんからのプレゼントか何か?」
「あぁ、」
唇に指を当てる。
「俺のご褒美」
(所要時間:9分)
言葉はいらない、ただ・・・
「金がほしい」
「何言ってるんだお前」
「だってよぉ…。愛してるとか、あなただけとか、散々言ってたんだぜ…?」
「いや、まあ、騙されてんじゃないかとは思ってた」
「いや騙されてはいない! ってか言いたいことあったなら言えよ! 言ってくれよ!」
「言えないだろ人の恋路に」
「でもよぉ…。結局、高収入の男の所に行くとか…ないわー…」
「まあ、気を落とすな。世の中そういうこともないこともない」
「言葉はいらない。ただ、金がほしい」
「その金をゲットしてどうするんだ」
「アイツのとこに」「未練タラタラだな!!」
(所要時間:9分)