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8/31 「不完全な僕」

 大魔王、と呼ばれる者がいた。
 積極的に都に攻め入ることはなかったが、数百年を生き、人をさらっては儀式に使い、己の研究に没頭しているという。討伐に向かって生きて帰った者はいなかった。
 今日もまた、勇者と呼ばれる者たちが大魔王のもとに辿り着いた。
「わしは完全な存在になる」
 大魔王はそう言った。
「そのための犠牲になってもらうぞ」
 激しい戦いの末、やはり勇者たちは敗れ去った。大魔王は血にまみれた両手を掲げる。
「わしは完全な存在になる。―――かつてのように、もう一度だけ…」
 大魔王は苦しげに、はるか昔に亡くした伴侶を想ってつぶやいた。
「婆さんや…」

(所要時間:9分)

8/31/2023, 11:08:49 AM