君の目を見つめると、どうも死にたくなる。
自分が汚れた存在のように感じて逃げたくなるのだ。
そりゃあぼくも君も人間なんだから多少は汚れているものだけど、どうも君はまっさらな様な気がして、手を出せないどころか遠くから眺めるのもつらい時がある。
それでも君は〝友人〟だと言う。
ね、君は解っているのかな。
君のその無邪気さで、ぼくが余計にみじめな気持ちになること。
優しさだけじゃ救えないモノがあること。
苦しくて苦しくてどうしようもないのに、それでも君を守りたいと、守られたいと離れられない存在があることを。
それを知っていて、君はそうして肩を組むの?
▶君の目を見つめると #69
『最後のみんなの笑顔がステキ! ドキドキもハラハラもあってとても面白かったです。連載お疲れ様でした』
コメント欄を開いていちばんに目に入った文章に首を傾げる。
そういう評価を受けるようなものだったかな、これ。
画力も、ストーリーも、キャラクターもなんだかイマイチで。すこし検索すればもっとずっと素晴らしい作品がゴロゴロと転がっているだろうこのご時世に、どうしてこんな、駄作といって差し支えないような漫画もどきに称賛の声が送られるのか。
画面をスワイプしていく。称賛は消えない。お疲れ様でした、面白かったなど、やはり明るいコメントのほうが人気のようだ。
とあるコメントで、ふと、手が止まった。
『俺、この作品、正直好きじゃなかったんだよね』
そりゃそうだ。その言葉を待っていたんだ。
『初めてみた時、絵もストーリーも変にかぶれてる感じがして、好きじゃないなあって。どうして自分がこれを見てるのか分からなくなった』
でも、とコメントは続く。
私はおもわず目を見開いた。
『でも、なんでか読むのを止めようとは思わなくって。んで様子を見てたんだけど、読み進めれば進めるほど伏線が回収されてくし、コマ割りとかすごい見易くなってって。んで、結局ここまで読んじゃった。今では読みきれてよかったなって思うよ。
何様だよって感じになっちゃったけど、先生、連載お疲れ様でした。ここまで逃げずに描き上げてくれてありがとう。この作品と、あなたと出会えて本当によかった』
〝次回作も楽しみにしています〟
その一文で締め括られたそのコメントは、下から二番目のところにあった。
大粒の涙がこぼれる。こんなにもあたたかい言葉をかけられたのは初めてで、胸の辺りがひどく苦しくて、それ以上にぽかぽかと熱を帯びている。
スマホを胸に抱いて、声に出してみた。
「こちらこそ、ありがとう」
また彼らと出会うために頑張ろう。
さあ、次はどんな話にしようかな。
▶ハッピーエンド #68
いくら目をこらしてもゴールは見えないし
手を伸ばしたところで指の先すら掠めない。
だけど、私だってもういい歳じゃないの。
グズグズしないではやく決めなくちゃ。
だいすきなこの場所から
離れる勇気を。
あたたかなこの夢が醒める前に
その頸に手を掛ける覚悟を。
▶夢が醒める前に #67
円くておおきな黒曜石に星が宿る。
憧れの色を帯びたそれは、やさしい輝きを湛え、じいっとこちらを見ていた。
これ以上見ると汚してしまいそうで、見てはいけないと思うのに、どうしも目が離せない。
不意に、やわくうつくしく輝くそれを、キタルファのようだと思ったのは何故だろう。
▶星が溢れる #66
平穏な日々とはあって当たり前のものなのだと、そう信じて疑わなかった。そうではないと理解したのは、奇しくもあの地獄を体感してからだ。
彼奴は私から全てを奪っていった。家も、家族も、友人も、温もりも、それら全てを等しく消し去ったのだ。
普段の穏やかさを忘れたように狂い、うつくしいマリンブルーを真っ黒く焦がしながらこちらに躍り掛かる姿は、瞼の裏に鮮明に残っている。
十数年経った今となっては、家族や友人との会話も、あれだけ睨み合っていた上司とのいざこざですら遠い記憶の向こうで、ひどく懐かしい。
あそこから得られたものも少なくないが、如何せん失ったものが多すぎた。
私は未だに海に近づけないままでいるのに、世界は刻一刻と進んでいく。私は焦る。一人だけ世界のどこかに置いていかれているみたいで寂しくて、さらに焦ってミスをして……。そんなことを繰り返しながら日々を乗り過ごしている。
この胸の穴がいつ塞がるのか私にはわからない。そもそも塞がるかどうかすら怪しい。
だけど。
それでも私は、あの日常を──あの日常に限りなく近い幸福を目指して明日も生きていくのだろう。
それが残された私にできる、唯一の鎮魂歌だと思うから。
▶平穏な日常 #65