それは大きな衝撃であった。
雷に打たれたかのような衝撃が全身を駆け巡り、当時のわたしは瞬時に悟った。これこそ運命と呼ぶに相応しい出会いだ、と。
わたしたちが会うことは決して叶わない。
だけど、それでもわたしは彼を支えると決めた。彼を追いかけ続けると決めた。
「は~、今日も尊いわぁ……」
これは、わたしと最推しくんとの出会いの話。
▶一筋の光 #35
わたしね、ユメとげんじつをつなげたいの。
あなたがねむってしまうまえに。
やりかたはまだわかんない。
だけど、はやくしないとあなたがとわノねむりについてしまう。
そしたら、また、あえなくナるんでしょ?
そんなのやだよ。おはなしできてないことがたくさんあるのに……まだおわカれしたくない。
デも、みつからない。
いそがなくちゃいけないのに、かけらひとつもみあたらないの。
だからわたしはもっとあせる。あせって、さがして、からまわって、またあなたにしんぱいさせる。
だけど、どんなにこえをかけてもわたしがとまらないから、あなたはあきれたかおをしてなんにもいわなくなったね。ただ、じいっと、となりにいてくれる。
あのね、わたしね、それがすっごくうれしいの。だいすきがあふれてとまらないの。
だからわたしはもっとがんばってゆめとげんじつのつなげかたをみつける。
ほんとはこうしているひマもないくらいなんだよ。
ああ、いそがなくちゃ。
あなたとまたわらいあうために。
あなタのとなりにいられるみらいのために。
▶眠りにつく前に #34
あの日、こうしていなければ。
あの時、こう動いていれば。
あの瞬間、こう言っていれば。
そんな後悔の裏側にかならず存在するのが、“今のあなた”とは違う世界。
パラレルワールドと呼ばれる、もう一つの物語。
私はそこからやって来たの。
私はあなたで、あなたは私。
私たちは正真正銘、一心同体で唯一無二の存在なんだよ。ふふ、すごいでしょ。
かつてあなたが選んだ道とは違う場所を選び、違う道筋をまっすぐに歩んだ、私の人生。
……ねえ、あなた、そういうものが気にならないの?
▶もう一つの物語 #33
やわらかく香り立つダージリン。
ゆうらりゆらりとけむる湯気に、私の心は踊る。
やっぱり、穏やかな昼下がりに飲むあなたの紅茶が世界でいちばん美味しかった。
▶紅茶の香り #32
友達ってなあに。
恋人は分かるよ。お互いに好き合っていて「付き合おう」って誓った人のことでしょ。俗にいうカップルってやつ。
家族も分かるよ。血が繋がっていたり、おんなじ家で過ごしたりする中でもとくに信頼できる人のことでしょ。あ母さんとか、お父さんとか、お祖父ちゃんとか。あとは従姉のはずちゃんも入るかな?
仲間も分かるよ。おんなじ目標に向かって一緒に支え合ったり、競い合ったりして、お互いにいい影響を与えられる人のこと。
だけど、友達だけは分からない。
友達の定義ってなに? どこまでが知り合いで、どこからが友達なの?
そう言ったら、クラスメイトはわたしを笑った。そんなことも分からないの、って。
それで、なんだかすごく不快になった。だからあの人たちが友達じゃないことは分かる。だけどそれ以外は分からない。
ねえ、おじさんは知ってるんでしょ? だったら教えてよ。友達っていったいなんなの?
「──ずっとあんな調子なんです。発見された当初から、答えのない問いを続けている」
いったいどうしたら良いのでしょうかと頭を抱えついに泣き出してしまった研究者。
彼は世のカウンセラーの中でも指折りのプロフェッショナルだ。そんな人物が治せないと判断すれば、件の少女は間違いなく“処分”されてしまう。彼はそれを嫌がった。彼は音を上げることなく、どう処置すべきか思案し、あの問いの答えを考え、考え、ない答えを求めすぎた結果、精神を病みかけてしまっていた。
そんな彼の背をやさしく撫でながら「大丈夫だ」と語りかける男性。彼はこれから少女の養父となる人物だ。
「大丈夫、あなたは何も悪くない。彼女をここまで必死に守ってくださった立派な方だ。あの日、あの子を保護してくれたのがあなたで本当に良かった」
その言葉に研究者の目から涙が溢れる。
にこりと笑いかけた男性は、次に少女の元へと向かった。
「やあ。初めまして、お嬢さん」
「……おじさん、誰?」
「僕は徳野。君の友達になりたくてここまで来たんだ」
少女は首をかしげた。
「無理だよ。だって、わたしは友達を知らないもの」
「そうなのかい? それじゃあ、おじさんと一緒に探してみようか」
何を? と問う少女に、友達の定義、と答える徳野。
「二人で一緒にこれからゆっくり学んでいこう。僕は決して、君をひとりにしないよ」
僕は見ての通りただのおじさんだけど、君と一緒になにかを探すことくらいは出来そうだ。
しゃがんで少女と視線を合わせると、彼は静かに手を差し出した。
「君が嫌でなければ、僕とそとの世界を見に行ってみないかい?」
その後、徳野は研究所を後にした。
運転しながら微笑む徳野の車の助手席には、泣き疲れて眠ってしまったひとりの少女が座っている。
▶友達 #31