もしも時間が止まるなら
今、この時間を写してほしい
▶時間よ止まれ #13
遥か上空に浮かぶ、色とりどりの星たち。
あか。しろ。あお。き。
多彩な色を放ちながら、煌々と輝く星たち。
きら。きら。きら。きら。
嗚呼、あの何処かに、君がいる。
▶夜景 #12
ある日、空は笑った。
からからと声をあげながら肩を揺らした。
人々は憂う。
そこかしこに入ったヒビに慄き、風に乗せられ流される黄の砂に恐れをなし、どうかどうかと涙を乞うた。
なので、空は一時涙を溢すこととする。
すると人々は泣いて述べた。嗚呼良かった、これで我らは生き残れる、と。
ある日、空は泣いた。
ほろほろと悲しみを溢し、悲痛な涙を流した。
人々は嘆く。
燦々と輝く日の光は覆われ、山の麓は飲めぬ水であふれ、かつてのように笑みを乞うた。
なので、空は笑うこととする。
人当たりの良い具合に、ニコニコと。程程に笑い、程程に泣き、とても好い具合の表現をその広くて大きな顔に張り付けた。
人々は、それは大層喜んだ。
これでもう干ばつも起こらぬ! 田畑も沈まぬ! 各地で祭りが催され、彼らは一晩中飲み食い踊り、全身で喜色を浮かべる。
それを遥か上から眺める空は、冷めた顔色で笑っていた。
そう、空は悟ったのだ。
私は彼らとは違うのだと。私は彼らのように、己の感じたものを大きく、過大に表してはいけぬのだと知ってしまった。
人々は笑っていた。
かつての血生臭さはほとんど失くなり、平和を謳歌する人々で溢れかえる。もはや空への感謝も乞いも必要のなくなった。時代は移り変わるのだ。
それでも空は笑った。
もはや感情など、今持ち合わせているもの以外忘れてしまった。
空は考えた。
私はもう自由に笑うことは無いだろう。自由に泣くことは無いだろう。
私は、最初から、きっとそういう星の元に在ったのだろうか。
空は泣いた。
空が泣いた。
それは、誰に知られるでもなく、塩辛い涙を流すだけである。
きっと今も泣いている。
空自身も忘れてしまったこの思いを、小さな小さな雫に託して。
▶空が泣く #11
黒いネームペンでバツを付ける。塗り潰すように線を書くと、むしゃくしゃも少しだけ晴れた。
そういえば、そろそろ身辺整理を始めないといけない頃だよなあ。なんて悠長に考えながらペンを置く。
同じページに赤い水性ペンで書かれた丸が、ひとつ。
それは翌週の日曜日を表していた。
▶カレンダー #10
あれは、私の記憶にひどくこびりついた錆です。
あの日宇宙から飛び降りてきた彗星は、あなたを迎えにきた使者を乗せていたのかもしれませんね。
なんせ、あれが視界から消え失せた時、あなたの心臓はぴたりと動かなくなってしまいましたから。
いくら嘆いたって心の穴は埋まらないし、どれだけ叫んだってあなたに届きやしないのに、こうしてあなたを想いつづけることを止められない。頭ではきちんと理解できて、ちゃんと決心も出来ているはずなのに……。
どうやら心というのは、存外融通の効かないものらしいです。
まぁもし此処にあなたがいたら
「他人に配れる心があるなら、おまえが幸せになるその時の為に蓄えとけよ、バーカ!」
なんて突っぱねられていそうですけどね。
私は、蒼く染め上げられたあのソラの色を、未だ忘れられずにいるのです。
私にとって、蒼は、まさしく“恐怖”そのもの。それは私の大切を余すことなく奪っていったもの。
これまでそうだったように、これから先もずっと、私は蒼を恐れ、避けながら過ごしていきます。ずっと。ずうっと。
ねえ、___様。
私、思うんです。
いっそどこかの麗しき姫のように、寿命と引き換えにあなたの記憶をさっぱりと消してくだされば良かったのに、って。
いつまでも拭えぬであろう複雑な気持ちを、記憶とともに棄ててしまいたかったのに。
▶喪失感 #9