ある日、空は笑った。
からからと声をあげながら肩を揺らした。
人々は憂う。
そこかしこに入ったヒビに慄き、風に乗せられ流される黄の砂に恐れをなし、どうかどうかと涙を乞うた。
なので、空は一時涙を溢すこととする。
すると人々は泣いて述べた。嗚呼良かった、これで我らは生き残れる、と。
ある日、空は泣いた。
ほろほろと悲しみを溢し、悲痛な涙を流した。
人々は嘆く。
燦々と輝く日の光は覆われ、山の麓は飲めぬ水であふれ、かつてのように笑みを乞うた。
なので、空は笑うこととする。
人当たりの良い具合に、ニコニコと。程程に笑い、程程に泣き、とても好い具合の表現をその広くて大きな顔に張り付けた。
人々は、それは大層喜んだ。
これでもう干ばつも起こらぬ! 田畑も沈まぬ! 各地で祭りが催され、彼らは一晩中飲み食い踊り、全身で喜色を浮かべる。
それを遥か上から眺める空は、冷めた顔色で笑っていた。
そう、空は悟ったのだ。
私は彼らとは違うのだと。私は彼らのように、己の感じたものを大きく、過大に表してはいけぬのだと知ってしまった。
人々は笑っていた。
かつての血生臭さはほとんど失くなり、平和を謳歌する人々で溢れかえる。もはや空への感謝も乞いも必要のなくなった。時代は移り変わるのだ。
それでも空は笑った。
もはや感情など、今持ち合わせているもの以外忘れてしまった。
空は考えた。
私はもう自由に笑うことは無いだろう。自由に泣くことは無いだろう。
私は、最初から、きっとそういう星の元に在ったのだろうか。
空は泣いた。
空が泣いた。
それは、誰に知られるでもなく、塩辛い涙を流すだけである。
きっと今も泣いている。
空自身も忘れてしまったこの思いを、小さな小さな雫に託して。
▶空が泣く #11
9/16/2023, 1:01:10 PM