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 あれは、私の記憶にひどくこびりついた錆です。
 あの日宇宙から飛び降りてきた彗星は、あなたを迎えにきた使者を乗せていたのかもしれませんね。
 なんせ、あれが視界から消え失せた時、あなたの心臓はぴたりと動かなくなってしまいましたから。

 いくら嘆いたって心の穴は埋まらないし、どれだけ叫んだってあなたに届きやしないのに、こうしてあなたを想いつづけることを止められない。頭ではきちんと理解できて、ちゃんと決心も出来ているはずなのに……。
 どうやら心というのは、存外融通の効かないものらしいです。

 まぁもし此処にあなたがいたら
「他人に配れる心があるなら、おまえが幸せになるその時の為に蓄えとけよ、バーカ!」
 なんて突っぱねられていそうですけどね。

 私は、蒼く染め上げられたあのソラの色を、未だ忘れられずにいるのです。
 私にとって、蒼は、まさしく“恐怖”そのもの。それは私の大切を余すことなく奪っていったもの。
 これまでそうだったように、これから先もずっと、私は蒼を恐れ、避けながら過ごしていきます。ずっと。ずうっと。

 ねえ、___様。
 私、思うんです。
 いっそどこかの麗しき姫のように、寿命と引き換えにあなたの記憶をさっぱりと消してくだされば良かったのに、って。
 いつまでも拭えぬであろう複雑な気持ちを、記憶とともに棄ててしまいたかったのに。


▶喪失感 #9

9/10/2023, 2:05:27 PM