【鋭い眼差し】
私はいい人。
人助けが趣味だ。
私があてもなく歩いていると公園で寝ている男性を見つけた。
注意してやろう。
私「昼間から働きもしないでいいご身分ですね。人生舐めてます?」
男性「なんすか急に。カルトの人ですか?」
私はあきれてゲロを吐いた。
びちゃびちゃ。
男性「え?やば。すみません。仕事サボって休んでるだけですけど何か?」
なんてやつだ。
これが日本型雇用制度の闇か。
私は男に鋭い眼差しを向けた。
私「お前みたいな奴がいるせいで日本の経済は停滞してるんだ。分かってんのか!」
バキィボキァ。
男性「痛。やめてくださいよホントに」
私「土下座しろ」
男性「え?」
私「土下座ちろぉおおおおぉぉぉーーー」
私はたまたま持っていた日本刀を抜いて切りかかった。
悪く思うなよ。これも全て私の視界に入ったお前が悪い。
そうして一人の儚い命が消えた。
〜その後。警察署にて。
男性「アイツは一体何者だったんですか?」
ポリスマン「ただの無職だよ」
【大事にしたい】
台風到来前日。職場にて。
「台風が来たら田んぼを見に行きたくなりますよねー」
新人の田中は言った。
毎年、台風が来ると田んぼを見に行って行方不明になる人が後を絶たないのは周知の事実である。
しかし田中が茶化したように言うのを聞いて私は思わず田中を殴り飛ばしていた。
「ぐふぅ。は?え?」
何が起きたか理解出来ていないままうめいている愚かな新人のために私は丁寧に説明した。
「はー馬鹿。ほんと馬鹿。救いようのない馬鹿だわ。お前みたいな浅はかな奴がいるせいで周りの人が迷惑してんだわ。少しは自重しような」
すると田中は理解したようで、
「サーセン」
と短く謝った。
〜翌日
私は台風が来ると思わず家から飛び出していた。
「風やっべぇぇぇーーーー雨も凄げぇぇぇーー」
そうだ。田んぼを見に行こう。
たしか近所に田んぼがあったはずだ。
見に行くついでに罠を張ろう。あと花火を股間に挟みながら◯ouTubeの配信もしないと。
私は田んぼに着くと服を脱ぎ興奮のあまり踊り始めた。
やはり台風といえば田んぼだな。
新人には見栄を張ったが気をつければ大丈夫だろうし。
しかし
「あっ」
私は足を滑らせて近くの川に落っこちてしまった。
なんとか上がろうともがいたが、自分が仕掛けた罠に引っかかり這い上がれない。
「チクショー調子に乗るんじゃなかったぁぁぁーーーーー」
そのまま私はどこかに流されていった。
命は大切に。
【海へ】
私はクレーム大好きマン。
「今日も迷惑の限りを尽くすか」
私は邪悪な笑みをこらえつつ今日海辺にオープンしたカフェに入っていった。
店員が来ると私はすかさず言った。
「いつものヤツをくれ」
〜2時間後
「こちらがご注文の品です」
届けられた料理を見て私は絶句した。
どう見ても手抜きだったからだ。
店員は言った。
「右からみかんの皮、冷えた塩、ぬるい水です。ナイフとフォークでお召し上がり下さい」
私はすかさずクレームをいれた。
「なんで水がぬるいんですか?氷ぐらい入れて下さいよ」
すると店員は反論した。
「この店の飲み物は全てぬるい状態で出てきます。メニュー表にも書いていますよ」
私は即座にメニュー表を確認した。
すると確かにメニュー表の最後にミジンコレベルの大きさでそんな記載があった。
なんてことだ。これはこっちの落ち度だ。
「すみません。なんでもないです」
私が素直に謝ると、しかしそれを聞いた店員は調子に乗りはじめた。
「はー(ため息)。謝るぐらいなら最初からゴチャゴチャ言うのやめてもらえます?こっちはオープン初日で忙しいのにあなたみたいなみすぼらしいブサイクに時間を割いてる暇は無いんですよ。底辺は底辺らしくゴミでも漁って飢えをしのいだらどうですか?」
ピッキーン。
さすがの私も限界が来た。
なんだこの店は。馬鹿にしやがって。
そもそも冷えた塩ってなんだよ。冷やすなら飲み物を冷やせよ。
「ざけんなぁアアアアアアー」
私は手をテーブルに叩きつけた。
が、その反動でテーブルのフォークが胸に突き刺さり私は泡を吹いて倒れた。
異変に気づいた店員が2時間後に救急車を呼んだが、間に合わず私は息絶えた。
【私の当たり前】
「わ、なんだコレ」
私がいつものように危険運転を繰り返していると、タイヤがバーストした。
こんな時は人に頼るに限る。
火花をちらしながら職場につくと同僚に聞いた。
同僚「予備のタイヤがあるから貸してあげるよ。クギがたくさん刺さってるけど」
使えん。
仕方ないので後輩に聞いた。
後輩「え?タイヤが使えないなら新しい車を買えばいいだけですよね。ていうか、そんな状態で会社に来たんですか。バカなんですか?」
クソが。
仕方ないので課長に聞いた。
課長「そっかー。車が使えないなら仕事に来れないよね。首にしよう」
ゴミが。
仕方ないのでその辺のおっさんに聞いた。
おっさん「人のタイヤを盗めばいいだけだよね。バレなければ犯罪じゃないし」
なるほど。採用だな。
─しかしこの時の私は気づいていなかった。
新しいタイヤを買うという現実的解決法が存在していたことに。
【君と最後に会った日】
私が渋谷の駅前で日課の変人ダンスをしていると少年に声をかけられた。
「1000円貸してくれませんか?」
話を聞くと青森に行きたいが財布を落としてしまったのでお金を借りたいらしい。
可哀想に。
同情した私は快く1000円を貸した。
少年はお礼を言い駆け足で何処かに消えていった。
いいことをしたな。
私が幸せを全身で感じていると隣でことの一部始終を見ていた親友の佐伯が言った。
「お前。騙されてるよ」
「え?」
意味がわからない。
「考えてもみろ。1000円で青森に行けるか?」
「あ」
それは確かに。
「しかもこの肌寒い中、薄着だったし。断言するけどあの少年は今頃ほそくえみながらラーメンでもすすってるよ。ご愁傷さま」
なんてことだ。
真実を知った私にこみ上げてきたのは悲しみではなく燃え上がるような怒りだった。
クソガキめ。許さん。
私はこんなこともあろうかとお札につけていた発信機でガキの居場所を特定すると走って追いかけた。
〜1週間後
不眠不休で走り続けた私は青森県の某街で力尽きた。