「私が死ぬところを見ててほしいの、絶対に忘れないでほしいの」向こう岸に立つ君が俺に電話をかけながらそう言った。嫌な予感はずっとあった。胸がざわついて仕方がなかった。なのに足が竦んで動かなかった。“ブツッ……ツー……ツー”という音が鼓膜をふるわせてきたとき、落下していく君を追うように視線を這わせていた。ああ……もう終わりなんだって思いながら、ただただ立ち尽くしているだけしかできなかった。もうなにも取り戻せない。ただあの日に縋る。神にないものねだりをする。落下していく君が頭から離れない。俺はなにをしているんだろう。なにをしていたんだろう。ごめんな。
今が未来に繋がるのかわからない。不安になる。また本当のことを言えなかった。きっと繋いでいる手もいつかは離れてしまうことだろうと思う。俺のせいだ。ぜんぶ俺のせい。
「なにかやりたいことないの?勉強もしてる様子ないし、生きるということに対して希薄だよね」死ぬために生きていることはみんな同じなのに、命を上手く燃やせていないと、下手だと指摘される。不公平だな、世の中って。やりたいことよりも、やりたくないことの方が多いよ。どうして急かすの。まだ見つけている最中なのに。絶対やりたいことなんてひとつあればいい。不器用な俺はひとつしか熟せないから。だから少し待ってて。
朝日の温もりのなかに君は居なくて、俺だけがベッドに横たわっていた。窓から差し込む陽光はすっかり夏の様相で、俺は、またひとりでこの夏を過ごすのかと辟易しながらも、生活を続ける。
どっちに進むのが正解なのかと考えたところで正しい答えを導き出せたことなんてないのに、どうしていつも迷うのか。散々迷った挙句、選んだものは大体間違っているから、どちらにせよ救いはない。やっぱあっちにしておけばよかったなあとか、いっつもないものねだりをしている。