世界が終わるからという理由に肖って君と居られる、なんてことはありえないことだってちゃんとわかっていたよ。君と一緒に居られる確率よりも、世界が終わる確率の方が高いなんて、不思議だよね。そう理解しつつも、俺が君に電話をかけてしまったのは、最期くらい声が聞きたいなっていう切望だよ。迷惑だった?ごめんね。
最悪なことばかり続いて、もうだめだって泣いてるときに限って君がやってくるから、なかなかしねない。俺の生きる意味になんかならないでほしかったよ。
あの子の好きな人が僕じゃないことくらいわかってたけど、たった一回挫けたくらいで失恋だなんて名前を変えないでほしいな。まだ僕の恋は初恋のままだよ。だってあの子に好きだって伝えてない。だから失恋なんてしてない。あの子は僕の気持ちを知らない。だから失恋なんかじゃない。そうだよ、君があの子の彼氏だったとしてもね。僕があの子に好きだと言って、ごめんなさいとあの子に言われるまでは、失恋なんかじゃないんだよ。
自分の気持ちに、行動に、自信がなかった。
だから君に気持ちを伝えることも躊躇ってたし、もうこのまま言わなくていいかなって思いながら眠りにつくんだけど、朝起きるとやっぱいつかはとか思っちゃんだよ。
朝日が背中を押してくれるんだけど、夕日に引き戻されて、同じことを繰り返してた。
なにやってんだろうって肩を落としても、状況が変わるわけもなくて。
映画や夏祭りに誘えなかった。
それどころか君の前じゃ上手く笑えない僕を君はどう思ってたのかな。
線香の煙が揺れる後ろの方で笑う君は、思い出の人になってしまったから、新しい記憶をくれない。
頭の中で思い出をひたすら繰り返すだけ。
記憶の中で愛を叫んでも、その続きが無い。
だって君が僕を好きだったかわからないし、それ以前に愛を叫ばれた君がどんな反応をするかわからない。
この後悔は骨になっても、灰になっても、世の中のどこかで彷徨い続ける気がする。
どんな形であっても君にもしも再会できたとしたら、そのときはしっかりと君の目を見て、僕のすべてをのせて愛を叫ぼうと思う。
ひとつだけ聞いて欲しいことがあると切り出したあの人。それは、永遠の眠りを共にという誘いだった。その誘いは上辺であり、僕を唆すための戯言であることをうっすら察しながらも、無垢な僕を演じ続ける。口車に乗せれたと思ったのか、意気揚々としているあの人を痛々しく思う。僕はもう子供じゃなくなってしまったみたい。あの人の汚い部分を汚いものとして受け入れてしまっているから。あの人は僕だけを殺して、昔の恋人と再び暮らすのだろう。勝手にすればいい。あの人が誰かの元へ還っていくように、僕も僕が在るべき場所へと向かうから。最も、あの人は欲張りだから僕の自由を許せないだろうけど。それでも、ふたつ手に入れることができないことを心得ているはずだ。だから、ひとつだけ。そうやって生まれた分岐の二択で、僕の時間だけを止めることを選ぶのはとても強欲であり、傲慢だ。それならいっそ甘い言葉などは浴びせず、無惨に殺してくれて構わないのに。僕は、あの人を赦したくない。憎みながら死んでいきたい。息の根が止まる寸前まで憎むことで煮詰まった思念を遺して、いつまでも苛んでやりたい。楽になんてしてやらない。あの人だって覚悟はできているはずだ。少なくとも僕はできている。甘い言葉に酔わなくても、痛みや苦しみに耐えることは容易い。だって、このコーヒーは眠剤入りだもの。嚥下して間も無く意識が落ちる。そして、灯油で弧を描いてマッチを灯せば、すべてが終わって永遠になる。
「いいですよ、僕もそれを伝えようとしていました」
「……え、本当かい? ああ、よかった。断られたらどうしようかと思って気が触れそうだったんだよ」
全くおかしなこと言う人だ。元々気なんて触れているだろう。今だってそうだ。まともじゃない。
「断るなんてことしないですよ。さあ、あなたの好きなようにしてください。ちゃんと従いますから」
「ありがとう。目が覚めたとき、今度こそお互いのたったひとつになれることを祈って——」
嘘つき。
たぶん、この言葉は届いていない。
このまま永遠が始まると思うとやりきれないけど、仕方がない。今更、もう。