猫背の犬

Open App

「私が死ぬところを見ててほしいの、絶対に忘れないでほしいの」向こう岸に立つ君が俺に電話をかけながらそう言った。嫌な予感はずっとあった。胸がざわついて仕方がなかった。なのに足が竦んで動かなかった。“ブツッ……ツー……ツー”という音が鼓膜をふるわせてきたとき、落下していく君を追うように視線を這わせていた。ああ……もう終わりなんだって思いながら、ただただ立ち尽くしているだけしかできなかった。もうなにも取り戻せない。ただあの日に縋る。神にないものねだりをする。落下していく君が頭から離れない。俺はなにをしているんだろう。なにをしていたんだろう。ごめんな。

6/18/2024, 11:48:08 AM