最悪
出会いは最悪だった。
今から思えばお互い子供だったんだなと。
高校生になって、ようやくそいつに女性というものを意識した。
他に近寄ってくる女は、オレの見た目目当てだったと思う。
まぁ、あいつも最初はオレのことを見た目で見ていたこともあるかもしれない。
ただ、あいつと口喧嘩したり、どうでもいいことで笑ったりしている時が1番楽しかった。
告白したのはオレからだった。
鳩が豆鉄砲くらったような、あいつの顔は今でも笑えてくる。
オレが告白するなんて思いもよらなかったのだろう。
まぁ、オレ自身もそう思ってたよ。
でも、自然と口から出たんだ。
本当に自然とな。
出会いは最悪だったけど、今は最高の恋人だ。
狭い部屋
名家の令嬢として生まれた私は、今まで何不自由ない生活を送っていた。
部屋も十二分の広さがあり、それが当たり前だと思っていた。
中学生の頃、初めて片想いをした。
自分とは真逆の世界にいる子だった。
だからこそ、好きになったのかもしれない。
お嬢様と呼ばれて、ちやほやされていた私を、
唯一普通の女子としてみた男の子。
ひょんなことから、その子のお家に招かれた。
彼の部屋はとても狭かった。
普通の家ではそれが当たり前だったと知ったのは、随分後のことだった。
けれど部屋の狭さよりも、彼の端正な顔が、
匂いが、その瞳が、いつもより近いことにドキドキした。
ちょっとでも手を伸ばせば、届いてしまうその腕。
捲られたシャツから覗く強張った筋肉が、
男の子だということを再認識させられた。
お茶でも持ってくると言って下に降りていった。
私だけがいる狭い部屋だけれども、
彼が隣にいるような気がして、
何だか落ち着かなかった。
失恋
初めてした『失恋』
それは嗚咽と言っていいくらいの叫びで、
自分でもこんなに涙が出て、こんなに感情がぐちゃぐちゃになるんだと知った。
私は告白しては振られてしまう。
もう何度目だろう。
好きな人とは永遠に結ばれないのかとさえ思い、
私は『恋』をすることに疲れてしまった。
なのに、また『恋』をした。
性懲りも無く。
これが最後の恋になるといいなと願いながら、
私は私の背中を押した。
正直
「へー、付き合ってるんだ、あの子と」
なるべく動揺しないように反応できただろうか。
胸の音がいつもより響いて煩く感じた。
心が抉られるというのはこういうことを言うのだろう。
私の長年大事に育ててきた想いは、嫉妬という、どす黒い何かで塗りたくられていくようだった。
顔の表情が強張りそうになりながらも
なるべく表情が変わらないように努めた。
相手は私の気持ちなんか知らずに、
惚気話に花を咲かせる。
正直に言えば、私は今から告白しても遅くないんじゃないかと感じた。
もちろんすぐに付き合えるとは思っていない。
でも私のこの想いを知ってもらえれば、
優しい君は少しでも私に意識を傾けてくれるかもしれない。
徐々にこちらに誘導すればいい。
「正直言うとね。私もあなたのこと好きなの」
梅雨
彼は優しい人だ。
だからしょうがないと言えばそれまでだし、
優しくしないでとは言える立場でもない。
彼にとってはどうということはないのだろう。
相手の女の子は頬を赤く染めている。
向けられる眼差しの意味を彼は知らない。
一緒に傘に入るとはどういうことなのか、
下手すれば明日の朝には噂にだってなるかもしれない。
耳障りだ。
この雨のように。
梅雨は嫌いだ。