無垢
君から好きと告白されて付き合った。
僕も男だ。
『好き』と言われて嬉しくないわけじゃない。
最初こそは彼女のことをそこまで意識はしていなかった。
君が積極的だったから、断るのも…と思っただけだ。
意外にも健気に僕のことを好いてくれる君に、
少しずつ惹かれていった。
多分、君と同じくらい、あるいはそれ以上に、
僕は君のことが好きなんだと思う。
手を繋いだり、腕を組んだり、
彼女に触れる回数が多くなって。
君の柔らかそうな唇にも触れてみたいと思うようになった。
頬に手で触れれば、顔を真っ赤にする彼女は、
まだ無垢な少女と言えた。
いつまでも純粋でいて欲しいと同時に、
露わになって欲しいという気持ちが生まれる。
そんな僕の頬にふと何かが触れた。
気が付けば、彼女の顔が近くにあった。
「………あ、」
呆気に取られた顔をしているだろう僕に、
彼女は可愛らしく舌を出して魅せた。
やはり彼女は無垢で愛らしい。
終わりなき旅
私は世界を旅している。
一度きりの人生。
色んな景色を見てみたい。
たくさんの人たちに会ってみたい。
生計はブログやYouTubeでのんびりと稼いでる。
時には現地でバイトをしたりもする。
異文化に触れることはかなりの刺激だ。
まだ見ぬ景色を求めて、
私の旅は終わらない。
「ごめんね」
正直、分かっていたことじゃないか。
それでも、こんな僕でも、勇気を出して告白したんだ。
伝えたかった想いを言葉にできた。
かなり震えていたし、どもっていたけれど。
それでも、後悔はしていない。
涙は溢れてくるけれど。
『ごめんね』
そう言われた。
その後も何か言われた気はするけれど、
頭が追いつかなかった。
いや、理解したく無かっただけかもしれない。
幼馴染みだったから、少しは脈があるかな…なんて、
思い上がりもいいところだ。
半袖
衣替えの季節になった。
雨が振っている日は長袖の人がいるものの、
暑い日はやはり半袖の人が多い。
図書館にて。
少し背伸びをして取ろうとした本は、
誰かの手にすっぽりとおさまった。
横目に入った腕の筋肉で男性だと分かった。
目を向けると、学校一の秀才と呼ばれる彼が、
微笑みながら「どうぞ」と渡してきた。
やっぱり男の子なんだなと思った。
憧れの人から手渡された本をギュッと抱きしめた。
天国と地獄
今日のあいつは機嫌がいいらしく、朝から陽気に鼻歌なんか歌ってやがる。
これなら、オレのおねだりにも期待が持てるかもしれん。
だが油断は禁物だ。
場合によっては機嫌が悪くなる可能性だって秘めているからだ。
オレがあいつに要求することだと?
『お小遣いを増えたらいいなぁ』とか、
『もう少し料理のレパートリー増えたらいいなぁ』とか、まぁ、そんな些細な願い事もあるが、
今日オレが要求したいことはそんなことではない。
しかし言い方次第では地獄を見ることになる。
新婚ではあるが、長年付き合ってきて、
お互いにケンカっ早い性格なところもあるせいか、
だいたいの地雷は分かる。
だが押せば意外と弱いところもあるやつだから、
これは押すしかない!
「朝風呂、一緒に入ろう!」
まだまだ恥ずかしがり屋なあいつには、
無理難題な要求だったようだ。
ビンタを食らった頬を撫でながらも、
いつかは恥じらう姿を見せてくれるだろうと妄想するのも楽しいものだ。