届かぬ想い
『図書館の君』
と私の中で勝手に名付けた想い人の横顔は、
今日も聡明で美しい。
美しいと言っても女性では無い。
男性だけど「イケメン」という安易な言葉では、
形容しがたさな顔立ちだ。
事実、学校での成績は学年トップなのだから。
そんな彼は本が好きなので、図書室によく来る。
「こんにちは」
と声をかけてくれた。
クラスが違うので、彼との唯一の接点は、
図書委員としての私の本の貸し出し作業の時だけだ。
ほんの短い時間だけど、彼が手に取った本を私が手に取る。
それだけで彼と何か共有できた気がしたのだ。
本のタイトルをよく見れば、あまり普段の彼の貸し出し履歴からは、予想が付かない系統の本だった。
恋愛小説とか読むんだ、意外だなぁ…と思っていると、顔に出ていたのか、人に勧められて…という答えが返ってきた。
勧めた人とは誰のことだろう。
本好きなの私としては気になった。
だが、再度タイトルに目を向けると、記憶が蘇ってきた。
今朝の読書習慣で、全く同じ本を読んでいた同じクラスの女子の顔が浮かんだ。
その子は『図書館の君』に惚れている。
そして可愛い。
性格も私に比べたら、守ってあけたくなるような。
神様へ
まずは仕事が決まりますように。
恋人ができますように。
友人と一緒に行く旅行が晴れますように。
推しに会えますように。
あ、一応、健康でいられますように。
ダラダラする癖が直りますように。
でもやっぱりダラダラ少しはしたいです。
趣味に使えるお金が増えますように。
推しのグッズがたくさん欲しいので。
快晴
昨日の土砂降りの雨から一転。
カーテンの隙間から見えた光に吸い寄せられるように窓を開けば、思わず目を細めてしまうほどの青い空だった。
昨日は先輩に告白して振られた。
彼女、やっぱりいたみたい。
そりゃ、そうだよね、かっこいいし。
当たり前かと自分に言い聞かせる。
泣き腫らした瞳に、この青い世界は清々しすぎた。
もう少し感傷に浸りたいのに、どうも世界はそうさせてくれないらしい。
食い気だけはあったらしく、朝ごはんはそれなりに食べた。現金なもんである。
玄関を開けると、タイミング良いのか悪いのか、幼なじみと目があった。
私の赤くなっているであろう目をじっと見て、
『あんぱん食うか?』と言ってきた。
先程、朝ごはんを食べた癖に、手があんぱんを欲しがっていた。
失恋で費えた疲労を回復しようとしているのかもしれない。
久しぶりに幼馴染みと一緒に歩いた気がする。
必要以上に話さない、その優しさがありがたかった。
不意に『オレにしとけば』と言われた。
『オレにしとけば』とは?と喉元から出かかった言葉を飲み込んだ。
唐突な告白に私は混乱したが、それでも幼馴染みだから、何となく好意があることは知っていた。
『……いいかも』
吐息と共に言葉を返した。
透き通った青い空を見ていたら、悪くないと考えたからだ。
遠くの空へ
逃げ出したい。逃げ出したい。
やっぱり叶わなかった。あの子には。
分かっていたことだけど。
あの人はあの子を選んだんだ。
いや、そもそもあの人には、私の存在すらなかった。
アプローチが必要なのは分かっていたことなのに。
遠くから見つめているだけでは、いつかは負けることも分かっていたことなのに。
今は、がむしゃらに走ることしかできない。
流れる涙が羽になって、どこか遠くの空へと舞い上がればいいのに。
言葉にできない
たった4文字の言葉なのに。
世の付き合っている子たちは、どういう感じで自分の想いを伝えたのだろう。
到底、私には出来そうにない。
日記に『好きです』と書くだけでも、恥ずかしいのに。
あなたから言ってくれたら、どんなに嬉しいことか。
でもそれは望み薄だ。
自分から勇気を出さなければ、
一生想いは伝わらないのだろう。
鏡の中の私が口を紡ぐ。
『す・き・で・す』
ゆっくりと唇を動かしたものの、
きちんと言葉にできない。