人はよく、「夏がやってきた」とか、「冬の足音が聞こえる」とか、言ってる。
でも、季節は、やって来るものなのかな。
僕たちが、向かっていくものだったりして。
時が過ぎるんじゃなくて、僕たちが時に出逢いに行ってたりして。
そんなことを考えてたら、もう夏だ。
とても暑い日々に、僕らが足を踏み込み始めた。
ただいま、夏。
寡黙な人だった。
自分から話すことはなく、僕から話しかけても、相槌を打つだけ。
何も言わないから、冷たい人だと思われてたけど、誰よりも努力家で、誰よりも熱意を持っている人だった。
そんな君は、きっと嫌になったんだね。
君ができる人になれたのは、血を吐くほどの努力を積み重ねたから。
でも、誰もそれを認めない。
天才だ、元々のスペックが高い、当たり前。
その期待に、応えることが辛かったんだね。
僕の言葉が届かないくらいに、苦しかったんだね。
目の前の四角い石を眺める。
ここへ来る時に買った炭酸を飲む。
ぬるくなった炭酸には、もう炭酸なんてなくて、蓋を開ける時に何も言わなかった。
虹の始まりには、死者たちが集うらしい。
虹の橋が、天へと続く橋として向こう岸へ渡る前に、自分の後悔を悔やんだり、最後にこの世界を見たり、満足そうに座って待っていたり。
魂それぞれが、それぞれの最後の時間を過ごす。
大切なあの人は、ベッドの上で、あれがしたかった、これがしたかった、まだ死にたくないな、と、後悔を口にしながら、それでも幸せそうな顔で行ってしまった。
あの人は、後悔があるのだろうか。
それとも、この生に、満足したのだろうか。
僕との生活は、どうだったのだろうか。
今すぐ会って、話したい。
虹を探して空を見上げても、そこにあるのは、ギラギラと照りつける太陽だけで、虹なんてあるはずもなかった。
「…であるからして、この式が…」
先生の低い声がかすかに耳に届く
のそりと顔を持ち上げると、数学の授業中だった
気づいたら寝ていたようだ
ふぁ、と、控えめにあくびをして、残っている眠気を感じながら、それらを体から追い出すべく、ぐっとひとつ伸びをする
少しスッキリした体で、晴れた外を眺めながら、ぼんやりと授業を聞く
今日の外も暑そうだが、エアコンがきいた部屋は、ひんやりと冷たい、少し寒いくらいだ
なんだか、いつもより体が軽いし、世界も綺麗に見える
ちょっとだけ、がんばろ、とか思っていたら、頭に衝撃を感じた
びっくりして体を起こす
「こらー、寝てるんじゃないぞー」
周りのクラスメイトがくすくす笑っている
どうやら先ほどまでのは、夢だったようで、社会の先生が僕の頭を小突いた衝撃だったらしい
たしかに、今日は曇りだったし、僕の席は外の景色が見える窓際の席じゃない
なんだよ、と思いながら、伸びをひとつ
夢の中のように、スッキリしていない体でペンを持つ
所詮、夢は夢か
現実とは違うんだな、なんて考えながら、先生が話す開国の話をぼんやりと聞いた
太陽は眩しくて、いやになる
でも、君はそんな太陽の光を、スポットライトみたいに浴びて
キラキラしたどこかのスターみたいに、俳優みたいに生きている
いつでも日陰を探している僕とは真逆の存在だ
そんなことを君に話したら
じゃあ君は私のマネージャーで、音響さんで、ディレクターでスタッフだね
と言って笑ってくれた
そんなことを言って笑ってくれる君は、花火やイルミネーションなんかより、よっぽど綺麗で
まるで、青春映画のワンシーンを見ているようだった