「…であるからして、この式が…」
先生の低い声がかすかに耳に届く
のそりと顔を持ち上げると、数学の授業中だった
気づいたら寝ていたようだ
ふぁ、と、控えめにあくびをして、残っている眠気を感じながら、それらを体から追い出すべく、ぐっとひとつ伸びをする
少しスッキリした体で、晴れた外を眺めながら、ぼんやりと授業を聞く
今日の外も暑そうだが、エアコンがきいた部屋は、ひんやりと冷たい、少し寒いくらいだ
なんだか、いつもより体が軽いし、世界も綺麗に見える
ちょっとだけ、がんばろ、とか思っていたら、頭に衝撃を感じた
びっくりして体を起こす
「こらー、寝てるんじゃないぞー」
周りのクラスメイトがくすくす笑っている
どうやら先ほどまでのは、夢だったようで、社会の先生が僕の頭を小突いた衝撃だったらしい
たしかに、今日は曇りだったし、僕の席は外の景色が見える窓際の席じゃない
なんだよ、と思いながら、伸びをひとつ
夢の中のように、スッキリしていない体でペンを持つ
所詮、夢は夢か
現実とは違うんだな、なんて考えながら、先生が話す開国の話をぼんやりと聞いた
太陽は眩しくて、いやになる
でも、君はそんな太陽の光を、スポットライトみたいに浴びて
キラキラしたどこかのスターみたいに、俳優みたいに生きている
いつでも日陰を探している僕とは真逆の存在だ
そんなことを君に話したら
じゃあ君は私のマネージャーで、音響さんで、ディレクターでスタッフだね
と言って笑ってくれた
そんなことを言って笑ってくれる君は、花火やイルミネーションなんかより、よっぽど綺麗で
まるで、青春映画のワンシーンを見ているようだった
君の顔は、いつでも綺麗だった
君の体は、どんな時も美しかった
君の仕草は、どんなものでも流麗だった
全部、見てきたから、言える
でも、君の心は、見えなかったんだ
君の心をのぞこうと思っても、いつもカーテンがかかってるみたいに、影は見えても、本質は見えなかった
君が何を考えているのか、何を思っているのか、何も見えなかった
静かな空気が漂う僕の部屋で、夕焼けに染まった白いカーテンがふわりと揺れた
もう、君の心を見たいと願っても、叶うことはない
自分にとって、一番楽な姿勢で
目をそっと閉じる
視界は暗闇
自分の体が、下へと沈んでいくイメージ
ずるずると身体が引き込まれていく感覚
みえてくる
自分の心の色
真夜中の海のような色
暗闇、底がないような深さに、恐怖を感じる
だんだん、息苦しくなってきた
目を開ける
青い世界
すぅーっと、青色が引き、いつも通りの日常が見えてくる
また、自分の日々に戻ってきた
次は、何色が見えるのか、どこまで見えるのか、少し想像してみるが、何も見えては来ない
さて、明日の予定は何だったかな
はぁ…暑すぎる…
ついこの間まで、まだ肌寒かったでしょ?
気温の変化に、体が悲鳴をあげてるし
異常気象じゃない?
報道ではあんまり言われてないけど、熱中症で倒れてる人とかめっちゃいるらしいし
何でこんな時代に産まれちゃったんだろうな
…でも、こんな時代だから、みんなに出会えたんだよな
そうやって出会えたみんなと、この大変な時代を過ごしていくんだな
…そう考えたら、ちょっと悪くないかも
でも暑いのはどうにかしてくれ?