寡黙な人だった。
自分から話すことはなく、僕から話しかけても、相槌を打つだけ。
何も言わないから、冷たい人だと思われてたけど、誰よりも努力家で、誰よりも熱意を持っている人だった。
そんな君は、きっと嫌になったんだね。
君ができる人になれたのは、血を吐くほどの努力を積み重ねたから。
でも、誰もそれを認めない。
天才だ、元々のスペックが高い、当たり前。
その期待に、応えることが辛かったんだね。
僕の言葉が届かないくらいに、苦しかったんだね。
目の前の四角い石を眺める。
ここへ来る時に買った炭酸を飲む。
ぬるくなった炭酸には、もう炭酸なんてなくて、蓋を開ける時に何も言わなかった。
虹の始まりには、死者たちが集うらしい。
虹の橋が、天へと続く橋として向こう岸へ渡る前に、自分の後悔を悔やんだり、最後にこの世界を見たり、満足そうに座って待っていたり。
魂それぞれが、それぞれの最後の時間を過ごす。
大切なあの人は、ベッドの上で、あれがしたかった、これがしたかった、まだ死にたくないな、と、後悔を口にしながら、それでも幸せそうな顔で行ってしまった。
あの人は、後悔があるのだろうか。
それとも、この生に、満足したのだろうか。
僕との生活は、どうだったのだろうか。
今すぐ会って、話したい。
虹を探して空を見上げても、そこにあるのは、ギラギラと照りつける太陽だけで、虹なんてあるはずもなかった。
「…であるからして、この式が…」
先生の低い声がかすかに耳に届く
のそりと顔を持ち上げると、数学の授業中だった
気づいたら寝ていたようだ
ふぁ、と、控えめにあくびをして、残っている眠気を感じながら、それらを体から追い出すべく、ぐっとひとつ伸びをする
少しスッキリした体で、晴れた外を眺めながら、ぼんやりと授業を聞く
今日の外も暑そうだが、エアコンがきいた部屋は、ひんやりと冷たい、少し寒いくらいだ
なんだか、いつもより体が軽いし、世界も綺麗に見える
ちょっとだけ、がんばろ、とか思っていたら、頭に衝撃を感じた
びっくりして体を起こす
「こらー、寝てるんじゃないぞー」
周りのクラスメイトがくすくす笑っている
どうやら先ほどまでのは、夢だったようで、社会の先生が僕の頭を小突いた衝撃だったらしい
たしかに、今日は曇りだったし、僕の席は外の景色が見える窓際の席じゃない
なんだよ、と思いながら、伸びをひとつ
夢の中のように、スッキリしていない体でペンを持つ
所詮、夢は夢か
現実とは違うんだな、なんて考えながら、先生が話す開国の話をぼんやりと聞いた
太陽は眩しくて、いやになる
でも、君はそんな太陽の光を、スポットライトみたいに浴びて
キラキラしたどこかのスターみたいに、俳優みたいに生きている
いつでも日陰を探している僕とは真逆の存在だ
そんなことを君に話したら
じゃあ君は私のマネージャーで、音響さんで、ディレクターでスタッフだね
と言って笑ってくれた
そんなことを言って笑ってくれる君は、花火やイルミネーションなんかより、よっぽど綺麗で
まるで、青春映画のワンシーンを見ているようだった
君の顔は、いつでも綺麗だった
君の体は、どんな時も美しかった
君の仕草は、どんなものでも流麗だった
全部、見てきたから、言える
でも、君の心は、見えなかったんだ
君の心をのぞこうと思っても、いつもカーテンがかかってるみたいに、影は見えても、本質は見えなかった
君が何を考えているのか、何を思っているのか、何も見えなかった
静かな空気が漂う僕の部屋で、夕焼けに染まった白いカーテンがふわりと揺れた
もう、君の心を見たいと願っても、叶うことはない