昔言われた
好き嫌いをなくしなさい、って
だから、それを守ってきた
食べ物も、動物も、天気も、他人も、
全てから好き嫌いをなくした
そのせいだろうか
今は、好きにも、嫌いにもなれず、何もかもに、「無」と言う感情を抱くようになった
好きも嫌いもなくした結果、何も感じなくなってしまったよ
みんなおかしいって言うんだけど、僕にはこれが普通なんだ
この人間には、好きと嫌いと言う感情が、蘇ることはあるのであろうか
それを知るのは、未来を生きる、この人間のみだ
誰にも言えない秘密
それは、君にも言えない秘密
そんな秘密を、胸に抱き、君に別れを告げる
君は止めた、それでも無理やり、あえて嫌われるような言い方で、別れた
「君のことを好きじゃないんだよ。あの時の輝いていた青春はもう、ここにはないんだ。さようなら」
自分でも、伝えるときは辛かった
でも、君を悲しませたくなかった
君が泣いているところは、見たくなかった
愛する人が泣いているのは、見たくないから、お別れをした
「君に、会いたいなぁ…」
白いベッドの上、白い部屋の中で小さくつぶやく
その声は、口につけられた緑色のマスクによってくぐもっている
周りに立つ人達は、家族や親族、友達のみんな
その中に、君の姿はない
それは、自分で選んだ道の、当然の結果だけれど、それでも君に会いたいと願ってしまうのは、ただのわがままで、めいわくだろう
君と別れたあの日、私は病院で、不治の病にかかっていたことを医者から知らされた
私を愛した君だから、私だけを見つめてくれた君だから、私のせいで悲しませたくなかった
私だって、愛していたから、君だけを見つめていたから
君との思い出が蘇る、懐かしくて、キラキラしてて、君への想いが強くなるばかり
視界が滲んで、涙が流れてくる
ガラッ!
と、病室の扉を勢いよく開け、入ってきたのは、
全速力で走ってきたであろう、君だった
私は驚きを隠せずにいると、君が抱きしめて
「なんで言ってくれなかったんだ!僕は、言われなきゃ、伝えてくれなきゃ、わからないって!あれほど言ったのに!」
「…ごめんね…君を、泣かせたく、なかったんだよ…」
私の声は、涙で濡れている、君の声も、涙で濡れているが、私への愛を、はっきりと感じた
「僕も、君を泣かせたくないんだ、君を、君だけを愛しているから、君が泣いているところは見たくないし、君が幸せになっていなきゃ、嫌だ」
「だから、こんな私がいても、幸せじゃないと…」
「バカか!君は、本当にバカだ!」
まさか、ここで罵られるとは思わなかった、私が、「ごめん…」と呟いた瞬間
「いいか!僕は、君が大好きなんだ!愛してるんだ!君が不治の病にかかっていても、君が不器用でも、泣き虫でも、なんでも!」
そこで一息をついて、君は言った
「僕は、君と一緒じゃなきゃ、幸せになれないんだよ」
それは、今の私には、もったいなすぎる言葉だった
君のための幸せだと思っていたけど、それは違かった
そんなひどいことをした私が、それを受ける権利なんて、ないと思った
「君、今、私がこんな言葉受ける権利ないとか思ったでしょ」
なんで、こんな時だけ、私の考えがわかるのだろうか
「君が君である限り、僕は君に愛を注ぐ、そして、君からも愛が帰ってくる、それが、幸せなんだよ。それじゃあ、ダメなのかな…」
私は、さっきよりも、涙を流しながら、首を振る
「いいよ…ごめんね…!私、自分勝手だった…!君の気持ちも知らないで…君を悲しませて…私、最低だ…!」
「いいんだよ、君が謝らなくていい、君の気持ちを聞かなかった、僕が悪いんだ…ごめん、辛い思いをさせて…!」
この時、私は幸せだった
君も幸せだった
私たちは、来世でも一緒になるのだと、そう確信していた
わたしは、恋を失った
たいせつで、だいすきなあなたを、失った
あなたのかわりなんて、もういないのに
あなたはあなただけなのに
ねぇ、なんでいなくなってしまったの?
わたしをおいていかないでよ
ひどいよ、あんまりだよ
泥棒猫なんかにたぶらかされて
わたしよりも、すりよってきた猫の方がかわいいのね
ふーん、へぇー、そうなんだー
ゆるさないから。
「ごめんね」
私の耳に届いたのは、私が1番欲しくない言葉だった
君の口から、その言葉が出てきた時、胸が苦しくなって、ぎゅっとなって、なんだかわからないけど、苦しくなる
私の目からは、涙が溢れるばかりで、君をまた困らせてしまう
「ごめんね、ごめん、ごめんよ」
君の目からも、涙が流れる
そんな顔、しないでよ
大好きな人の泣き顔なんて、見たくないから
君は泣かずに、振り返らずに、前を向けばよかったのに
やっぱり優しいから、その優しさが、私を苦しませることも知らずに、優しくしてしまう
「ごめんね…」「ごめん…」
2人だけの、悲しい空気
楽しくて、短いあの頃の時間とは違って、今は、長い長い時間、
お互いがお互いのために動けなかった自分を咎める時間
お互いが、相手だけじゃなくて、自分のことも考えて動けなかった自分に、戒めをする時間
ごめんね
半袖から覗く、白い肌
暑い日差しを反射させて、きらきらとしている
それは、とても魅惑的で、私の思考を鈍らせる
それを見ていると、くらくらしてきて、ぼーっとしてきて、何も考えられなくなる
くるりと振り向く時に揺れる、ポニーテール
綺麗な黒髪がふわりと揺れて、その奥に覗く真っ白なうなじ
なんだかえっちで、ドキドキする
横を通り過ぎると、君から香る君の匂い
振り返って、少し高い君の顔を見ると、君もこちらを見つめてる
白い指を口元に、しーっの合図
そして最後にウィンクを一つ
それは毎晩私を見る目で、ぞくぞくっと、何かが背中をつたう
この学校には、私のような凡人と、高嶺の花の生徒会長が付き合っていること、さらには、あつい夜を過ごしていることを知る人は、私と、生徒会長以外、いない
今夜はどんな声でないてくれるのか、想像しただけでゾクゾクしてしまう
暑い空気に、ハアッと暑い息を吐く、
夏だというのに、吐いた息は、君の白い肌のように白かった