泣かないよ、これが最後だとしても
あなたが笑うんだから、こっちも笑わなきゃ
あなたを悲しませないためにも、笑っておくらなきゃ
滲む視界、頬を伝う涙、人にしては冷たいあなたの手
「えらいな…」
掠れた声と、震える手で頭を撫でながら褒めるあなた
その声が、弱々しく、優しく、消えてしまいそうで
その手が、細く、柔らかく、冷たくて
「げんきで…くらすんだよ…」
笑うと細まる、あなたの目
そこから流れる綺麗な宝石がひとかけら
それを見ることしかできない
「ふふっ…だいじょうぶ、君なら…」
不安を読み取ったのか、あなたは励ましてくれる
「さいごに…頼んでもいいかい…?」
こくこくと頷く
それを見てあなたは言う
「きみのこえを…きかせてくれないか」
何を言えばいいのか、思いつかないが、今思っていることを、行動と言葉で示そうと思ったのは、無意識であった
「ッ…愛してるッ!あなたが逝ってしまっても、わッ、私は、あなたを愛してるからッ!」
そう言いながら、口付けをした。
1秒にも満たない、一瞬
あなたは驚いた顔をしていたが、顔を離すと、優しい笑顔で、私を見ていた
「ありがとう…ッ…僕も、君のことを…」
ゲホッゴホッ
と、辛そうに咳き込むあなた口からは赤い液体が垂れている
ベッドを囲むみんなが近寄る
口々に声を上げるせいで、静かだった病室は、騒々しくなった
しかし、あなたは私を、最後の力を振り絞り、細い腕で抱き寄せて、耳元で囁く
『愛してるよ、今も、あの世でも、来世でも』
その声は掠れて、本当にその言葉が出たのかはわからない
だけど、そんな気がした
騒がしくなった白い部屋には、たくさんの人の声と、高い電子音が響いていた
あなたという存在がいたことが、嘘のように
君は怖がり。
小さな物音がたつと、「ひゃあ!」といって、驚いてしまう。
後ろから「ねぇ…」と声をかけながら肩に手を置くと、「うひゃう!」といって少しはねる。
お化け屋敷を見ると、それだけで少し震える。
ホラー映画のCMや、少しバイオレンスなドラマのCMを見るだけで、「ひぇ」といって、俺に寄り添ってくる。
夜のベッドで、抱きしめると、少し体をこわばせて、その後にゆるりと解ける。
不意に手を握ると、びくりと体を跳ねさせて、するりと手を絡めてくる。
あぁ、あぁあ。かわいい。かわいいなぁ。
ずっと一緒にいたい。そばでこの子を見ていたい。
君のその、高い驚いた声も。君のその、気持ちよさそうに喘ぐ、色っぽく艶やかな、高い声も。
ずっと聞いていたい。
あぁ、君を見るだけで、その声を聞くだけで、全身が、俺の心が、ゾクゾクするよ…♡
今夜の空は、星が綺麗だ。
君もみているのだろうか、この空を。
この、星が溢れる空を。
空の上から…
『君のその瞳』
『見つめられると、ほっとして』
『暖かい布団にくるまって、ぬくぬく、ほわほわしてる感じがする』
『そらされると、胸がざわざわする』
『何だか、自分の好きなものが、なくなってしまって、日常から消えてしまったみたい』
『君の瞳は、落ち着いていて、暖かくて、優しくて、柔らかい』
『そんな、安らかな瞳』
『その瞳で、私をずっと、見つめていてね…』
彼女が日頃からいっていた言葉を、彼女が死ぬ時にも聞くとは思わなかった。
でも、俺は心に決めた。いや、決まっていた。
彼女を、彼女だけを、見つめ続けると。
君の隣で、ずっと笑っていたい
君の隣で、いつでも微笑んでいたい
君の隣で、涙を流したい
君の隣で、怒りたい
君の隣で、いじけていたい
君の隣で、愛を確かめ合っていたい
これを思うのは、我儘?
それとも、仕方のないこと?
これは、君が決めてね
ずっと隣に居られなくても、君が笑えば、私は幸せだから