泣かないよ、これが最後だとしても
あなたが笑うんだから、こっちも笑わなきゃ
あなたを悲しませないためにも、笑っておくらなきゃ
滲む視界、頬を伝う涙、人にしては冷たいあなたの手
「えらいな…」
掠れた声と、震える手で頭を撫でながら褒めるあなた
その声が、弱々しく、優しく、消えてしまいそうで
その手が、細く、柔らかく、冷たくて
「げんきで…くらすんだよ…」
笑うと細まる、あなたの目
そこから流れる綺麗な宝石がひとかけら
それを見ることしかできない
「ふふっ…だいじょうぶ、君なら…」
不安を読み取ったのか、あなたは励ましてくれる
「さいごに…頼んでもいいかい…?」
こくこくと頷く
それを見てあなたは言う
「きみのこえを…きかせてくれないか」
何を言えばいいのか、思いつかないが、今思っていることを、行動と言葉で示そうと思ったのは、無意識であった
「ッ…愛してるッ!あなたが逝ってしまっても、わッ、私は、あなたを愛してるからッ!」
そう言いながら、口付けをした。
1秒にも満たない、一瞬
あなたは驚いた顔をしていたが、顔を離すと、優しい笑顔で、私を見ていた
「ありがとう…ッ…僕も、君のことを…」
ゲホッゴホッ
と、辛そうに咳き込むあなた口からは赤い液体が垂れている
ベッドを囲むみんなが近寄る
口々に声を上げるせいで、静かだった病室は、騒々しくなった
しかし、あなたは私を、最後の力を振り絞り、細い腕で抱き寄せて、耳元で囁く
『愛してるよ、今も、あの世でも、来世でも』
その声は掠れて、本当にその言葉が出たのかはわからない
だけど、そんな気がした
騒がしくなった白い部屋には、たくさんの人の声と、高い電子音が響いていた
あなたという存在がいたことが、嘘のように
3/17/2024, 11:27:46 AM