過ぎた日を想う
久々に開いた読みかけの本。パラリとページを捲ると同時に何かが足元に落ちる。なんだ、と拾ってみると栞代わりに挟んでいたスクラッチカード。
削りもせず挟まれていたそれは、いつ、何切っ掛けで買ったかも覚えてないが、せっかくだしと削ってみる。
「っおぉ!?」
現れた星マークにテンションが上がる。待って待って、星5個出たんだけど、コレ当たりだよね!?
配当金、5万!
喜び勇んでいざ宝くじ売り場へ。
「換金期間過ぎてます」
「え…」
「ですから、換金期間過ぎてるので無効です」
「何とかなったり…」
「なりません」
ですよねー…。トボトボと売り場を後にする。
さっさと続き読んどくんだったー…過ぎた日を想う。
星座
「本日の運勢、12位はふたご座」
あ、また最下位だ。なんかふたご座、12位多くね?見るたび最下位、泣き顔マークがあんだけど。
って、多分どの星座の人も思ってんだろうなぁ。実際は特定の星座の運勢が極端に悪いなんてこともないんだろうけど。そして同じくらい1位、絶好調の1日です、なんて言われる日もあるんだろうけど。
なぜか12位の方の印象しか残らん。人間とは勝手なものだ。そして毎朝見る星座運勢だって家を出る頃には忘れてる。
1位だろうが12位だろうが。その日をどう過ごすかは結局自分次第なのだ。
踊りませんか?
「踊りませんか?」
そう言って手を差し出してきたのはほぼ話したこともない同級生。隣の隣のクラスの男の子、接点などあろうはずもない。なぜ、私?
差し出された相手の手を取ることも出来ず凝視する。
「あれ、固かった? じゃあ、踊る?」
無反応の私に首を傾げながら再び手を差し出してくる。
「Shall we dance?」
こっちの方がいい?とやたら完璧な発音で有名な誘い文句を繰り出される。
「いや、言い方じゃなくて」
我が校は。地方の片田舎のくせにプロムなどという小洒落たものがある。友人の多い社交的な人達にとっては目一杯はしゃぎ、いい思い出作りになるのだろうが。生憎クラスメイト以外付き合いもない、ひっそりと学生生活を送ってきた私にとっては有り難くない制度である。コツコツ真面目に3年間過ごし、卒業目前になぜこんな強制参加という地獄の時間を味あわねばならないのか。
「えーと…何で私?」
「えぇ、それ聞いちゃう?察してよ」
告白なんて出来そうにないから、こうやって好きな子誘ってんじゃん。あ、やべ。好きって言っちゃった。
察しろと言ったそばから結局自分でベラベラと喋り、再び手を差し出される。
「で。踊りませんか?」
私の答えは…。
奇跡をもう一度
奇跡をもう一度…、いや、もう一度も何も生まれてこの方奇跡を感じた事なんてないですけど!?
なに、世の中の皆様はそんなに奇跡起こってるの?
神様、私の初奇跡はいつですかー!?
たそがれ
我が家には、縁側なるものがある。陽の当たるそこに腰掛け庭を眺めるじいじの背中は少しだけ小さくなり、少しだけ丸まった。傍らには、こちらも丸まって寛ぐ猫のタマ。
「じいじ、なーにたそがれてんの」
「ん、いや、なに。何にもしとらんよ」
かつては威厳のあった声も少し細くなった。隣に腰掛け、同じように庭を眺める。以前はかなりの数を世話していた盆栽も今は一つだけ。その残された一つは、かつて弟がボールをぶつけ、枝が折られた曰くありのものだ。
何年前だったか、あの時もこの部屋だった。この部屋で弟はじいじとタマの連携によってこってりしぼられた。そんな弟もデカくなり青春を謳歌中である。
「じいじ、まだまだ長生きしてよ」
「何じゃい、藪から棒に。お前こそ、はよ、ひ孫の顔でも見せんかい」
「いやーそれは先の長い話だねぇ。俺、まず相手いないし」
まったく、奥手過ぎんか。儂の若い時分には…なんて話を聞きながら。ふと会話が途切れ、二人してただただ庭を眺める。
「うわ、なに二人でたそがれてんの」
遠慮のない声は弟のもの。図体はデカくなったが若干お調子者なところはそのままで。
じいじの横で微睡むタマにちょっかいをかけ、いつかのように手を引っ掻かれる。静かだった部屋が少しだけ賑やかになる。